2015年5月23日土曜日

【有料制インタビューの導入】 新世代MR講座~オジサマ編~ 第8回 2010年4月号

<予想以上の厳しさ>
 あくまでも試行期間だからと、成功率が高そうな中堅MRたちを自ら選んで有料制インタビューに参加させた向井所長は、その惨憺たる結果に目を覆うばかりであった。
 
 まだ社内でも手探りの段階なので多少の失敗は許容すべきであるし、この録音だけでMRの質を論じてはいけないのだけれど、彼らが馴染みの医師とさえ専門的には“対話できない”と判明すると本当にがっかりする。普段の所長同行で重点的に指導しているつもりでも、プロパー意識が残る中高年からの指導は、こういった若者たちの職業意識にまで届いていないらしい。

 「たぶん、私たちが研修で習ってきているスキルとはまったく別次元のことなのかもしれません・・・。」
 いつもの覇気が失せてしまった川悦さんは、在宅勤務MRが作成したインタビュー報告書をぼんやりと見つめながら、力なく答えた。今回のプロジェクトは最初に開業医から実践していくため、地域医師会で評判が高い川悦さんは自信満々であったのだが、本社の医療情報部門から指定された質問に加えて、営業所内で独自作成した質問、そして川悦さんが作成した質問と続けていく途中では、医師からの返答に窮する場面が目立つ。
 ICレコーダーはその場の気まずさまでも鮮明に録音しており、美人で名高い川悦さんのプライドを深く傷つけるのであった。

確かに、あの温厚な老先生がこんなに細かい薬理学的な事項をこだわって聞き返してくると、事前の準備が間に合わないな。
『おい、それは2年前のLancetに載った発表だし、最近も頻繁に引用されているだろう。』
川悦さんが答えられない箇所では、まるで部下相手に話しているように口調がきつい。
報告書を読むと、医師が用いた医療略語を勘違いしたり、薬剤名を別の製品と取り違えたりと細かいミスが目立つ。もちろん、それなりに上手くインタビューできている範囲もあるが、老先生が配慮してくれたのかもしれない。あとでもう1回、録音を聞き返す必要がありそうだ。

 『まあ、やよいくん、悪く思わんでくれよ。こちらもタダで喋っているわけじゃないからね、医師としての知識をキミにぶつけてみただけだ。それにしても、おたくの会社も変わったことを思いついたもんだな。』
 録音の最後に老先生が豪快に話している場面で、ようやく川悦さんは少し微笑んだ。「私、これまでもMRとしての勉強を続けてきたつもりなんですけど、先生たちが面会中に手抜きをしているんじゃないかって、いつも気になってたんです。だってMRが面会しても、先生たちには一銭も入らないじゃないですか。廊下で素っ気なくって、接待で賑やかに喜んでいるだけの先生もいるし。でも、このインタビュー中の先生たちは本気で凄い迫力があるし、こちらの曖昧さを許してくれないし、何より話がそれぞれ違っていて驚くんです。」

 昨日は高槻が真っ青な顔をして帰ってくるし、普段のMR活動とは異質のインタビュー録りを並行するというのは、職業意識を変革する良いきっかけなのかもしれない。
 「俺もこんな鋭い質問を返されたら、その場で撃沈だな。」
 来週から有料制インタビューに参加する予定の桜田マネージャーは、いつにも増して真剣な表情で分析会に参加していた。MRが専門性の高い医療情報職として医師を黙らせる水準に到達するには、こういう膝をつき合わせた真剣勝負が欠かせないのか、と少しずつ意義を理解し始めた4月であった。





<双方に欠けてきた機会>
 MRとの面会中、「高度で洗練された会話内容に、全くついていけなかった」経験をしている医師はごく少数でしょう。部分的に医師でも理解しきれていない知識を除けば、やはり医療職として日々を送っている私たちのほうが、MRよりも多種多様で生きた経験を積んでいます。
 つまり医薬情報について文献ベースで勝ることはあっても、MRは医師に対して常に不利な立場に置かれている。「くすり屋さんに多くを期待するのも無理だし・・・」という医師のありがちで無関心な態度も手伝って、MRたちは医師が本気で面談にのぞむ場面から遠巻きに過ごしてきているわけです。
 医学部教育は、医療サービスの観点から“患者への接遇態度”を重視するようになった割に、“MRといかに協働するか?”には依然として無関心なままです。両者の関係性にはベタな接待や馴れ合いといったプロパー時代から続くものとは別に、双方が高度な専門性を公式試合のように照会しあう場面も必要だと私は思うのです。

 何より、専門も経験年数も勤務形態も異なる医師たちが、そろってMRとの面会に本気になる仕掛け作りが望まれます。しかもMRにとって、業務内で最も厳しい場面。
 私が提唱するのはワーク部分の具体的な改変を狙った、『MRによる医師への有料制インタビュー導入』です。頭脳を駆使せざるを得ない時間を業務内に作り出すことで、MRを厳しく鍛える意味合いも含んでいます。

 この仕掛けでは第三者的に契約を仲介する組織を創設して、参加する各社が平等に参画できることが重要です。
 製薬・医療機器企業側にも、医師や医療法人側にも強制力はなく、契約については任意参加とし、実際の情報ニーズに合わなければ更新時に任意脱退で構わないという仕組みです。医師とは月数回の契約を確保し、1回あたり1520分間のインタビュー料として数千円の報酬が発生するようにし、これを所得としてどう振り分けるかは勤務先と書面で契約しておく。開業医であれば、事業所得にできるでしょう。

 医師としての専門性に対して診療外報酬を得るわけで、接待もどきの不正競争を防止するため、誰がどの期間にどの企業とインタビュー契約をしているかは他社からも閲覧可能にします。さらに医師側からも企業側からも、次期インタビュー期間の更新については数ヶ月ごとの入札制にすることで、それぞれが希望するインタビュー内容が明確となります。
 例えば、新薬のプロモーションを狙うための地域情報収集なのか、長期収載品のプレゼンテーションなのかも質疑応答の中で明確に出来ます。単なる面会アポイント獲得ではなく、公式の営業記録としてのインタビューになります。
 録音には守秘義務も発生しますので、雑談レベルでの対話ばかり日々繰り返して営業日報を書いているMRにとっては、冷や汗で目が覚める良い機会になるでしょう。質問事項には各社のノウハウも蓄積していきます。

<公平で客観的な業務評価>
 高度な医療インタビューを構築する中で重要なのは、医師との質疑応答がきちんと全て録音されていて、しかも社内で客観的に分析された報告書が付き、現場MRが上司と一緒にインタビュー成果を自力で検討できるシステムです。これは社内の営業データベース作成の基礎になります。

 本社側の指定として「当社製品はどういった患者に適していると考えるか?」と各MRが担当医師に質問しても、実際の返答はあらゆるバリエーションを伴うでしょう。学術的に浅いイエスかノーかの閉じた質問を繰り返さないようにすれば、MRは担当施設の医師がどのように自社製品を捉えているかを知り、しかも随意聞き返せる権利を持ちます。紙と同等の単純なアンケート録りではなく、録音を伴うマスコミ取材を思い浮かべていただくと良いでしょう。
 医師にしても「先生の専門分野に関わる内容で、当社からご質問させてください」とMRから依頼されることに大きな違和感は生じません。臨床を離れている研究部門の医師であっても、この有料制インタビューは適応できます。本社側からも、医師から直接収集したインタビュー内容は外部機関に委託したデータよりも精度が高く、しかも全国で勤務している現場MRたちの質を確認するには好都合です。

 さらに既存の人事評価制度や営業成績では示されない、MR個人の業務適性も明らかにできるはずです。資格としては医薬品情報のプロフェッショナルなのに、井戸端会議的な面会を場当たり的にこなしてきたMRでは、営業成績の割にインタビュー内容が疎だと分かったり、逆に売れないMRが素晴らしい録音を次々とこなしたりもするでしょう。
 
 “そもそもMRとは医療の中で何をすべき仕事なのか?”という皆さんのモヤモヤした疑問は、面会時に医師側の本気を引き出す場面を作り出すことで、一気に解決の方向へと向かうのはないでしょうか?医師からの視線も、専門的な事項を適切に解説できるMRと面談していくことで、大きく見直されるはずです。

 新しい有料制インタビューを運用する上では、データ整理を補助する業務体制の確立や地域事情に合わせた諸調整も必要ですし、私が想定している以上の困難も生じていきます。でも現状から一向に発展しないMR活動を今後も放置して、MRたちの人生を輝かないままにしておくのならば、私の唐突なアイデアを実行してみる勇気も必要でしょう。

 

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