2015年2月8日日曜日

【プライベートだって充実したい(後編)】新世代MR講座~ワカモノ編~ 第7回 2010年3月

◎頭脳労働の質向上を

 昨夜の天気予報を見て冷え込みが厳しい3月の朝になるとは覚悟していたけれど、まさか車内エアコンの結露がドアを凍らせるなんて予想もできなかった。
 リモコンで解錠した運転席のドアはがっちりとボディに貼りついてしまい、芯まで冷えた手で引っ張ってもビクとも動かない。昨日の休憩時間に解氷スプレーを買っておくんだったなあ、と悔やむ高槻MR。

 10分以上、エアコンの温風を全開にしてもまだ凍っているドアをまじまじと眺め、もしや風下になるハッチバックの扉なら開くのか?と回り込んでノブを引いてみたら、あっけなくパカリと車内への道ができた。
 先週まで荷室で熟成中だった患者さん向け資材を、昨日に川悦先輩の車へと移動させていたので、レバーで後部座席を倒すと運転席へは意外とすんなりと到達できた。
 俺はクルマ泥棒じゃない、急いで病院に訪問したがっているMRという“営業の人”です、と小声で呟いてから、ようやく高槻くんは自宅を出発できた。

 小学校低学年の頃、東北地方の祖父母宅へ正月に帰省していると夜は窓ガラスがスケートリンクみたいに凍りつき、客間から離れたトイレへの廊下は本当に寒くてコリゴリだと思っていたのに、現在の配属先は冬になればそれなりの降雪もある地域だ。
 次の転勤は来年春だろうし、いつかは路面凍結とは無縁な南国の営業所で働くのも良いなあ。うちの会社は合併後に繰り広げられた中高年MRのリストラと積極的な新卒採用の結果、営業人員全体が急速に若返っているそうだ。
 同期の中には医療過疎地で奮闘するのに疲れ果てて本社部門への異動願を出した人もいるらしく、地方の営業所に欠員が出れば“まだ元気な”MRが補充人員として送り込まれる。
会社員だから、不本意な人事異動でもあからさまに文句を言えないし。
でも、のんびりした田舎で年配の先生たちを相手にゆったりと濃密に働くのも悪くないアイデアだ。

「道路と営業車が凍ってて、午前中に全部を回りきれなかったって?例のアポイントは守ってきたんだろうな?」
 この悪天候ではどうしようもないかと、高槻くんの報告にちょっと困った表情を浮かべた向井所長は、会議室に勢揃いした部下たちの前で本題を切り出した。

「つまり、これまでの突撃訪問的な活動は並行して残されるものの、営業対象で重要な先生方については録音付きでインタビューさせてもらうという主旨だ。
 当然、社内の営業記録として正式に補完されるし、その録音内容については4月に育児休暇から復帰予定の女性2人が在宅で聴きおこして分析作業も行う。いわば、新しい業容の在宅勤務ということになる。
 医師の診療時間を占有するわけだからMRが行うインタビューには対価も発生するし、契約内容は第三者機関を介することで他社も閲覧できるそうだ。
日時とインタビュー時間も設定されている公式な面談なので、単なる挨拶訪問ではなく、質疑応答に全力を注がなければいけないな。事前の準備や移動時間のやりくり、報告の処理についてもかなり気を遣うことになる。
 真冬だからと言い訳できなくなるな、高槻!」

 苦笑いする高槻くん。
 そうか、じゃあ無駄な挨拶訪問と移動をしなくて済むなら、運転しながらイラつくことが減って仕事も早く終わるのかな。
 このプロジェクトは順次、全国展開していき、いずれはMRが主任務とする壮大な調査活動と医師データベース作成につながるらしい。地域ごとに差が目立つMR業務を質・量ともに全国統一する目的も兼ねていて、転勤時に前任者から引き継ぐ事項も大幅にリニューアルされるそうだ。
有料のドクター・インタビューだなんて、先生を毎月取材しにいく番記者みたいなもの?質問方法も社内で統一したり施設ごとのアレンジを加えたりと随時、創意工夫をしてみるとか。
 でも、何でこれがワーク・ライフ・バランス実現の必須項目なんだろう?
例えば、南国と東北でも同じ行動になるわけ?天気からして違うのになあと、いまいちピンとこないものの、昔夢見た“誇れる頭脳労働”を想像させる説明につい聞き入ってしまう高槻くんであった。

  ワークの路線変更

 “安定志向”と言っても、現在が古典並みに姿を変えないよう保存されていくのを好むのか、それとも少しばかりのマイナーな変化くらいは望んでいるのか、昨今のワカモノMRたちの心はひとつに決めかねるようです。
 物心がついた幼少期には過剰物欲のバブル景気がみじめに弾け飛び、右肩下がりの暗い時代情景のもとで堅実さと行き止まり感を挫折した大人たちからすり込まれて、現在のワカモノMRたちは大きく物事が動き変貌することに対しては臆病です。
「前例通りにやってね」と上司が何気なく依頼しても、その中で起きるちょっとした変化にドキリと一人で戸惑い驚いてしまう。既存の概念を己なりに飛び越えていき、常識以上の新しい価値を生み出すことに疎い。

 『MRという仕事がこれから何十年変わらなくても、皆さんは大丈夫ですか?』という私の問いかけに、確信犯的な返答をするワカモノMRが少ないことが本当に気がかりです。

 でも私は、暗くて狭い井戸の中で右往左往するよりも勇気をもって飛び出ていくほうが、混沌とした製薬・医療機器業界で今後生き残っていく上では重要だと思っています。つまりは変化に対して受動的で不安を抱えたまま何年も漫然と生きるのではなく、先達たちがまだ実現していない新しい業務形態にも挑んでみるべきでしょう。

 これまでも各企業で部分的なMR業務の改変は続けられてきていますが、いまだにMRの“業務コンセプトが大改革された”という認識を得る段階にまでは至っていません。

 希望に胸躍らせて就職したワカモノMRたちが、数ヶ月から数年で業界の旧態依然や長時間拘束、業務内容の硬直性に落胆し、次年度の転勤や本社異動を機会に“変わる”ことを密かに期待していたりします。
とくに現状のワーク内容がライフの自由さ、とくに女性MRの将来性を大部分奪っていることは憤激ものです。数年間を男性と同様に働いてきた彼女たちが休職したり辞めてしまうことは、残される男性MRたちにも嫌な負荷がかかってしまう。誰かが最初の波を起こして、皆で現状を変えていくべきなのです。

そこで最初に手をつけるべき改変は、これまでの業務概念を塗り替える“インタビュー”の創設だと私は訴えたい。あくまでも、皆さんが現状で行っている日々の業務に組み入れていくのだとご理解ください。





 
これからのMRは、聞き手であり提案者

 まだ勤続数年目の各社MRが院内でどのような言動をして、医師とのコミュニケーションを取っている場合に何が及第点なのかを検討してきた私は、施設訪問や製品説明会の中で“無駄な時間が多すぎる”と常々疑問に思っています。
 もちろん医師や施設側がMRの都合に合わせて出会う準備をする習慣はないので、きちんと皆さんが面談準備をしてきた場合でも上手く進行しない場合があり、基本的な移動に費やす時間や待ち時間などは急には削りにくい部分です。

 でも各施設で医師側から観察していると、会話の最初で「いきなり本題に入れる」ワカモノMRは大手企業を含めて意外と少ない。それも医師にとっての“本題”を冒頭から提示できるスキルを持ち合わせていない場合があります。
 頻繁に手渡しされる自社製品関係の地域講演会パンフレットについては、施設宛に郵送でもメールでも、医師へ“届ける”こと自体に差はないわけです。
 それを取っかかりにして医師が納得するような医療解説が自在にできるのならば構わないのですが、医師の多忙や聞く気のなさを理由に瞬時の渡しっぱなし(または置きっぱなし)になっていることが多々ある。
 次の訪問時に、医師へ置いていった説明パンフレットのことを忘れていたりしませんか?MRとしての断続的な訪問を実行していく上では、医師と出会っていない時間の意義を高めておかないとスキルの進歩が起きないのです。

 つまり、“医師を本気にさせる”あるいは“本題を中心に据えて会話をする”といった有能なMRとしてのスキルについては、「現場での経験と勘を磨け!」といった古くて発展性の乏しいMR指揮系統に委ねられているために、なかなか進化が起きない。
 これでは、担当施設の差異によって運不運が出てきて当然です。結果的には年単位で放置されていく営業合理性の欠如が、MRにとっては必要以上の多忙を招き、医療情報職としての挫折感を味わう主要因となり、ワーク内容を硬直化させてそれ以外のライフを圧迫している。MR自身が職能の成長度合いを実感しにくいのは、己のスキルを客観的かつ真剣勝負の場所で社内へと証明し、正確な評価を受ける機会が乏しいからでしょう。

 そしてプライベートの充実を狙う新しいMR業務コンセプトを作り出すには、システム的にMRの会話を“医療情報職としての専門的対話”へと高めていくべきです。
医師と仲良しだとか雑談で盛り上がる、というのは仕事においては付随部分であって、それがMRの良好な営業成績につながるのだと思い違いをしてはいけません。営業の世界で医師がMRに「売らせてあげよう」と安直な片思いをしてくれるわけではないのですから。


 専門的な対話を医療界の仕組みからはみ出さないように行うためには、マスメディア同様の取材活動を想定するのが、医師にとっては違和感が少ないと考えています。
皆さんが各施設の担当医師たちへ、医薬品や医療機器に関わる専門的なインタビューを録る目的でアポイントを持って赴くというイメージをお持ちください。
 惰性にまかせて、出たとこ勝負で施設を回ることは可能でも、公式な営業記録として医師のインタビューを録る場合、即興では不可能です。社内での方針、各営業所の考え方、個人の独自性を発揮するためには?など、このインタビュー活動において新規に創案すべき事項は多数あります。
 新しいMR業務システムを創り上げ、結果的には誇れるライフの尊重を狙いワーク・ライフ・バランスを実現するわけですが、すでにこの時点で既存の概念を飛び越えている感じがしませんか?もちろん、仕事の成果が今よりも底上げされることを目的にしています。次号では、インタビューの各論についてさらに解説していきます。

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