2014年12月27日土曜日

「プライベートだって充実したい(前編)」新世代MR講座~ワカモノ編 第6回

◎年度末に向けて

 まだ布団の中で温まっていたいわ・・・と寝ぼけ眼で枕元の目覚まし時計を取り上げた川悦さんは、すでに昼の12時を過ぎていることを薄目で確認したものの、だからといって急に起き上がる気にはなれず、ぬるくなった陶器製の湯たんぽを右足で軽く蹴飛ばしてから目一杯の背伸びをした。
 帰宅が遅いと週末は寝てばかりで嫌なのよね、と小声で呟いてからベッドサイドテーブルの端に転がったままの携帯電話をむんずとつかみ、彼氏からの新しい着信がないことを見て小さい溜め息をついた。
 今週はどれくらい働いたのかなあ、夜間の講演会が2回、フレンチレストランでの接待が1回、昼の製品説明会も毎日続いたし、明日の医師会ゴルフコンペを先輩に交代してもらっておいて助かったかも。

 公称では週休2日の勤務だというのに、最近は帰りの時間が遅くなるほど疲労感が抜けにくくなっており、美容に人一倍の気をつかう自分としては睡眠時間を確保するだけで必死だ。
 ふらふらと右に傾きながら起き上がり、パジャマ姿のまま奥の洗面所に向かって鏡をのぞき込むと、左頬に小さな“大人にきび”が出来ていた。寝過ぎると、いつもこうだ。

 美容サイトで人気No.1の高級石けんを小型ネットで懸命に泡立ててから、ぬるめのお湯で注意深く洗顔を始めると、閉じた目の中を今週の仕事場面がダイジェストのように流れていく。
 仲の良いおじいさん先生の前歯が欠けた笑顔から、同行した中年MSの不機嫌な表情まで妙にくっきりと再生されて、オフの日なのに不思議な気分・・・。

 何だか私って複雑な仕事をしているものね。もっとシンプルで誰からも分かりやすい仕事を選べば良かったのかしら?
 国家試験には合格しているので、あのまま普通の薬剤師になることだって可能だったわけで、就職活動中に興味をひかれて選んだMRという職業が人生の中で一番の正解だったのかは時々考え込んでしまう。
 先月、寿退職した同期の結婚披露宴に出席したときは幸せ満開な花嫁姿をこれでもかと見せられて、嬉しい以上にひたすら羨ましかった。私もあんな素敵なウェディングをしてみたい・・・、いやそれ以上を目指さなきゃね。ドレスだけでなくて白無垢姿も捨てがたいし、その場合は写真を前撮りしようかしら?

洗顔を終えてから念入りに化粧水をはたき込み、気分的にもだいぶすっきりしてきた川悦さんは、昨夜にコンビニで買った野菜サンドイッチを頬張りながら、ネットで「ワーク・ライフ・バランス」についての特集サイトを読み返した。
同名のベンチャー企業まであるのね、と感心しているうち、競合他社では女性MRの育休復帰についての広報記事を積極的に載せていることに気づいた。年齢的には私より上みたいだけど、こういう先駆けが業界全体で増えることが一番の解決策なのね。それに比べてうちの会社は男女平等を売りにしている割に、ダイバーシティなんて社内報のおまけみたいな扱いだもの。

MRって、勤務時間の不規則さと帰宅の遅さを省けば結構、働きやすい仕事だと思う。連続休暇だって他の仕事をしている友達よりは取りやすいみたいだし、病院で月数回の薬剤師当直をしている同級生たちよりは毎日帰宅できるだけマシかもしれない。誇れるような仕事と充実した私生活が無理なく調和できるなんて、やっぱり今どきの理想論でしょ。

食事兼用のテーブル上で無造作に積み上げられた年賀状を数枚、ぼんやりと手に取ると年々赤ちゃんの写真が多くなってきたのが、まだ独身の身には何だか痛い。
結婚、仕事、育児・・・。週末特有のまとまりのない思考回路を、早くリセットして切り替えようと焦るアラサーMR手前の川悦さんであった。

◎私生活との釣り合い

 うぶで傷つきやすいワカモノだから、と注意して取り扱ってもらえるのは職場内の話であって、社会的年齢としては相応の自立した成人とみられているのが、20歳代半ば以降のMRたちでしょう。
 新卒でさえもMR認定試験という難所を通過し今春に迎え入れる後輩たちのことを思い描いたり、中堅MRは他地域への転勤を打診されたりと、2月は年度末にむけて皆がソワソワし始める時期でもあります。

 巣ごもり傾向が目立つ、昨今のプライベート重視世代に属するワカモノMRたちですが、いつもの慌ただしい仕事をしていれば私生活を優先する余裕は無いというのもまた実情。そもそも自分の私的な都合に対して職業が配慮してくれるわけもなく、定時オーバーの勤務にひたすら振り回されて続けているのが厳しい現実でしょう。
 そんな合間に楽しみを見つけ、交友関係を維持し恋愛や結婚を目指し・・・と、ワカモノMRは限られた時間内で物事をマルチにこなす才能が求められます。
 久しぶりに帰省したら、親から「結婚はいつになるわけ?もう20歳代だって終わっちゃうのよ」と余計なちょっかいをもらった人たちは少なくないはず。「結婚しても続けられる仕事なの?子育てだって大変よ」とMRとしての将来を心配された女性陣もいることでしょう。

 過去には、女性の結婚退職は当たり前のことで専業主婦やパート勤務となって家族を支えるのがごく普通、という社会概念がありました。
 いわゆる高度成長期は給与所得が右肩上がりですから、サラリーマンの多くは年功序列のレールに乗れれば勤続するほどに保有資産を増やすことが可能だったのです。遅い時間まで会社で猛烈に働いていても、夫の収入だけで家族全員を十分に養うことができる時代。家庭内のことは妻に任せっきりで勤勉な仕事人として生きていく夫のせいで、本来はキャリアを望む女性でさえ家の中に押し込まれている状況であったわけです。

 ところが近年は世界的不景気に加えて非正規雇用の増加、正社員の所得減少などが慢性化した結果、夫婦が共働きで家庭の総収入を維持しないと、以前同様の生活水準では暮らせないというキツい社会情勢となってしまいました。
未婚のワカモノ男性MRにとっては、さほど伸びそうもない年収で未来の家族を養う義務感が生じ、未婚のワカモノ女性MRにとっては結婚しても生活水準を落としたくないけれどMRのキャリアだってまだ続けたい、という二重苦を抱え込む困難な事態に陥りました。

 MRになっても結婚や次の仕事までの腰掛け程度だろう、という一部のオジサマMRの偏見とは相反して、多くのワカモノMRたちは非常に真摯な態度で働こうとする。嫌でも働き続けないと、これからの暮らしが維持できないことを若くして痛いほど理解しているのです。





 
今こそ、業務コンセプトを考え直そう

 けれども、ワカモノMRが早めに理解しておかなければいけないのは“体力も時間も無限ではない”、もっとポイントを絞って述べれば“何年も全力疾走していたらMRとして持ちこたえられない”ことです。

 「いつ何時も公を最優先していますから私生活など不要です」という極端な人たちを除けば、皆さんはごく普通のワーク・ライフ・バランス(仕事と生活の調和)を望んでいるでしょう。
 例えばこの連載を読んでいる時点から1週間以内に起きた出来事を、公私にわたってすべて正直に書き出したとしましょう。食事や睡眠、通勤や入浴などの削るのが難しい基本時間と、まさに仕事のオンタイムで止まりようのない時間、そして業務中なのにこれといった頭脳労働をしているわけではない時間とに大別できるはずです。
 トイレに行くのを我慢するほどの“超・忙しい”緊張感たっぷりの働き方を連日、社内外で続けていてはどんなにタフなMRでも肉体が悲鳴をあげてしまいます。1週間、1ヶ月、1年とスパンを広げていくと思い出す内容はどんどん広範囲になる。
 無駄と必要を区別することは、社会人になったワカモノMRが自力で判断する適応力を身につけていくことでもあります。

 基礎体力の高いワカモノとはいえ年単位で勤続していくためには仕事に対して緩急の差をつけていくべきです。
いわゆる要領がよい&サボりとは別次元で、MRという仕事の価値を高めつつも、効率的に結果を出し続ける必要性があります。もしも“平日の午前9時から午後5時までに全ての業務を終えて自宅へ帰る”とあなたの勤務を仮定した場合、その実現に向けて削ることができるはずの“アンチ頭脳労働”を真っ先に探してみましょう。
 でも自由裁量権を持つ部分での無駄時間を削るには、現状のままでも十分に行える場合と、新しい“業務コンセプト”が欠かせない場合があるのでは?と最近の私は考えています。

 「MRって普通は医師たちよりも遅くに帰る仕事じゃないの?」と考えているあなた、これまでの働き方に疑問のいくつかはお持ちでしょう。
たしかに製薬大手各社では“ダイバーシティ”や“女性雇用の推進”を高らかにうたって少しずつ業務の見直しを進めている事例がありますが、私が知る限りはまだ少数にとどまります。その志は素晴らしいのに、現況を皆でガラリと変えられない歯切れの悪さ。

 つまり、これまでの“MRの働き方”をどんなに無駄を削って効率化しようとしても、そもそもMRとしてお“業務コンセプト”を大胆に変更しない限りは、いつまでも空想の域をでないのです。
 私自身、数年前からの講演を通じて現況の改善を訴え続け、医師視点を借りることはMRの働き方をより良くするものだと疑いなく信じている立場ですが、各MRの抱える困難さを悩むにつけ、具体的な“業務プロセスの変更”にまで手をつけていかなければ明らかな変化にまで到達できないことを痛感するようにもなりました。


 ではワカモノMRにとっての新しい業務コンセプトとは?
 医薬情報担当者としての勤務の中で、具体的にはまずどこから変えていけば良いのか?
 次号では、さらに具体的に述べていきたいと思います。登場人物の高槻くんや川悦さんと同様、読者の皆さんにも是非、今こそ考えていただきたいですね。

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