2014年7月27日日曜日

【今宵も宴席に動員されています】新世代MR講座~ワカモノ編~ 第4回 2009年12月

◎師走の風物詩

 やっと今日こそは希望時刻に直帰できるなあと内心で微笑み始めた高槻くんは、薬局内の掲示板に貼られた大型の院内ポスターが目に止まり、赤字に二重線付きで書かれた『院内大忘年会』の文字をじっと見つめた。
 もう12月だからどこの業界でもお決まりの年末行事なんだ、と姿勢を正しつつ妙に感心していたところ、仕分け棚の奥から薬局次長がいかにも偶然を装って顔を出した。

「あっ、高槻くん!キミのところは今年も忘年会に参加で良いんだっけ?もう、そろそろ店に人数を連絡する日なんだよ。まあ、すまんが今回もいつもの協賛金、お願いしたいねえ。」
 協賛金?不意を突かれて思考回路が短時間のショートを起こしたものの、高槻くんは仕事用の柔和な笑顔を浮かべながら桜田マネージャーの申し送り事項を必死に思い起こした。

 うちのエリア内には、各社MRを忘年会などの私的な院内行事へ半ば強制的に駆り出す施設がまだ数カ所残っていて、得意先上位にあたるこの中堅病院でも前任者が財務スポンサーよろしく昨年も同席していたんだ。
 先月の処方数は予想以上だったし、来年度のことを見込んだらそれくらいの営業努力は欠かせないのかな。
 了解いたしました、さっそく戻って所長に確認いたします、とその場を上手に引き取ってからは資料袋を片手に営業車へ駆け戻り、高槻くんは公開終了間際の新作洋画を観るためにシネコンまで急いだのであった。

 「高槻、まさか全社で販促費削減が叫ばれている今年に限って、“あの病院”の忘年会に協賛しますなんて快く返事したわけじゃないだろうな?」
 ダンディーな向井所長の穏やかな視線が頬を刺し続ける感覚が、もう逃げ切れない類の緊張感を作り出す。いや、昨年と同様にと言われては断り切れないですよと、しどろもどろになっていると、向井所長は愛用のレミー製万年筆を机にカツンと置いてから大きな溜め息をついた。

 「おまえな、もうあいつは異動したけれど前任者が去年の忘年会で何の出し物をしたか、聞いていないのか?」
 出し物・・・?!

 「うーむ、その引継ぎはしていないのか。売り上げ的には楽勝の施設という扱いになっているんだろうが、これまでもうちの歴代担当者たちが泣かされてきた名物病院なんだぞ。みんな、あまりの恥かきで日報にすら事実を書いてこなかったけどな。まあボート部出身の高槻が参加するならば、今回は意外と大丈夫かもしれない・・・。交際費を使って構わないから、領収書をもらい忘れるなよ。」
 眉間にしわを寄せて黙り込んだ上司の姿に、大きな不安がよぎり始めた高槻くんであった。

 「えっ、例の大忘年会でしょ?そうかあ、今年から浩介くんが担当だもんね。準備期間を考えたらテーマ曲だけでも決めておけば?だって、診療部門と中央部門で熾烈な出し物競演らしいじゃないの。ナースのは結構可愛いけど、男性陣のは全般に踊りが長くてヤバいって噂よね。内科部門は、担当MRがリハーサルから参加しなきゃいけないって。」

 私があなたの勇姿を観たいわあと喜ぶ川悦さんの想像通り、師走を迎えた高槻MRはダンス天国と別称される大忘年会まで、気力と体力の限界に挑むことになったのであった。
 ちなみに当日の料理は非常に豪勢で、お酒も飲み放題だとか。ああ、それだけが俺の救いだなあ・・・。





 
MRは接待行為者ではない
 その昔、私が勤務していた病院では、部門ごとの忘年会に採用医薬品の担当MRが毎年参加するという慣例がありました。
 看護師と医師のテーブルに挟まれる一角にMRが並ぶテーブルが用意されており、その範囲だけがダークスーツ色のオジサマだらけになっていて妙な違和感を覚えたものです。 高槻くんのように宴会芸のお題まで課されている場合は例外としても、本来のMR業務とは無関係なはずの院内行事に、それなりの金額を分担してMRが自主的に(=半強制的に)参加している光景はさほど珍しくないわけです。
 問題はこれが“完全な業務”と呼ぶにふさわしい性質の行動なのか、という点にあります。

 例えば他社勤務ながらも年代が近いために取引先の廊下で親しくなった同性のMRがいた場合、今度一緒に飲みましょうよという種類の誘い方であれば公私の区別を明確にすることなく楽しめるでしょうし、社会人のマナーとして機密情報を安易に漏洩させないことを守っていれば親交を深める行動は問題視されません。
 自分の会社にも同系統の製品や営業戦略があるけれど、企業文化や展開規模によって相当に異なってくるものなんだという己の率直な感想は、社内会議や有料MR向けセミナーよりも同業者と近距離かつ対等なコミュニュケーションを持ったほうが、しっかりと深く理解できるのです。もちろん会計は割り勘で処理できる話ですし、スキルアップと自分磨きに役立ったのであれば個人所得を有効投資しているとも言えるでしょう。


  酒席は業務ではないはず 
 病院や診療所の“私的な”院内行事に取引先のMRが参加している場合、これは会社による業務命令なのか、あるいは単なる個人的希望での参加なのかが曖昧で分かりにくいのです。もしかしたら多めの金額を会社の交際費から持参していて、協賛金という名目で少しばかりの製品説明会でも冒頭に行って、支出についての言い訳を作り出しているだけなのかもしれません。
 どちらかと言えばプレゼンテーションはおまけ的存在で、その後の高級食材による酒席が本番というのは私自身も数回経験しましたが、結局のところは接待される医師たちに無防備な甘えの機会を与えているだけでしかありません。

人間というのは不思議な性質があって、当初は他人様のお金で飲食することに恐縮し強い抵抗感を抱くものの、周囲が同様の行為を当然のように続けていて回数的にも慣れてくると、善悪の判断を勝手にさぼるようになるのです。
新聞を賑わす各業界の汚職・贈収賄事件のベースになっているのは、甘える側・タカる側のルーズさが法に違反する段階まで伸び伸びになって断絶できないのが原因でしょう。 
幸い、私は大学病院時代に“みなし公務員”というMRのよる接待から完全隔離される立場を得たことで、これまでの美味しいお店の数々を過去のものとし、猛省も込めて“MRは接待行為者にならないで”と訴える側へと変化することができました。
もしあの時、医局人事によって公的病院へ異動していなかったら、今でも担当MRが都内のレストランで美食尽くしの接待をしてくれることを疑問も抱かずに感謝している医師のままだったでしょう。

◎自浄作用を少しでも築くべき
  大学病院に異動して間もなく、診療終了後に営業所でMR向けの小規模な講演会をしたことがありました。
 いつものようにMR活動の改善を提案し、同じ医療者としての心がまえを説明し終えると、予定時刻を過ぎて午後9時頃になっていました。
 慌てて会議室で自分のノートパソコンを片付けていると担当MRから「すでに、お車が待機しております」と言われました。

 よく事情が分からないままタクシーの前まで降りていくと「では、本日はありがとうございました!」とお弁当を手渡され、私だけが乗り込んだ直後にバタンとドアが閉まり、そのまま真っ直ぐ都内の自宅まで送り届けられたのです。
 出発のときに後ろを振り返ると担当MRたちは整列のまま笑顔で会釈をしており、“公務員倫理規約に当社は一切抵触していません”というアピール行為を個別に見せつけられているかのようでした。
 日勤を終えてから営業所へ移動し、MRたちが取引先から帰社後に開始した講演会だったので、空腹のままで帰宅した私は名店の冷めたお弁当にかじりついたとき、ふと思ったのです。

つまり接待行為は、無くなってもMR自身が完全に困り果てるわけではないのだな、と。
以前のように深夜近くまで高級なお店で飲食を提供してくれるMRがいなくても、医師は別に身動きがとれなくなるわけでもない。
今後、医師にコールをかけるきっかけを失うとか出入り禁止といった深刻な営業惨状をもたらすわけでもなく、接待が無いというのは双方にとって早く帰宅できるチャンスだったりもするのです。同エリアの他社も“公務員には接待いたしません”という営業体制であれば、攻勢の優越を心配して競う理由自体が存在しないわけで、医師には持ち帰りのお弁当さえ渡しておけば夕飯時間をMRが占有した補填にはなり得る、ということです。

各社の接待で都内の有名料理店を多く経験させてもらっていた私は、驚くとともに深くうなづくばかりでした。被接待者である医師の思い込みというのも誰かがちゃんと修正してくれないと、自発的には変化しにくいのでしょう。

つまり、高槻くんと同じく前例通りに担当MRとして院内行事に参加するというのは、単にきちんと覚醒できていないだけなのだと思います。
会社経費でMR自身が飲食するというのは本来、非常に恥ずべき性質のことです。以前の私は接待される医師側として、有名店にたくさん連れて行ってくれた担当MRたちと共犯でもあったわけです。
美味しいお寿司も鉄板焼きも高級イタリアンも、すべてその医薬品を内服中の患者さんたちの財布から頂いたお金によって支払っていたわけですから、“病気という他人様の不幸を食い物にしている”のが実態です。MRだけが自腹で支払い中、という事例は考えにくい。多くの得意先で開催されている院内行事にMRが自腹を切って毎回参加していたら、ワカモノMRの給与だけではとても生活が続きません。

一方で「先生を接待するのは楽しい」という発言をワカモノMRから数多く聞きます。
けれども仕事つながりで個人的な飲食を楽しみたいのであれば、お互いに全ての支払いを割り勘しながら胃袋を満たすべきであって、年間で約34兆円にのぼる国民医療費から薬剤費を通じてMRと医師の飲食費を“接待・宴席参加”の形で支出し続けてはいけないのです。
なぜ、こんな状況が今日も全国各地で続いているのか?そしてこれは最近話題の“医療費の無駄遣い”の重要部分に含まれているのではないでしょうか?

師走の宴席に動員されているワカモノMRの皆さん、外部の仕分け人からバッサリと切り落とされる前に自浄作用を少しでも築くことを考えたほうが良いと思いますよ。
もちろん、甘えさせてもらっている医療機関側もですが。


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