2014年6月21日土曜日

【バーチャルMRって?】新世代MR講座~ワカモノ編~ 第3回  2009年11月

  ネット戦略って言うけれど

 強面で鳴らす人って医師の世界にもいるんだね・・・と高槻くんは、目の前に鎮座している診療部長の迫力に圧倒されながら心の中でつぶやいた。
 いや、決して悪い人ではないし風貌が若干恐い、または声が比較的大きいだけでこの近隣ではとても名高い先生の一人である。ときどきテレビ番組や新聞の医療面に登場するので、遠方からの患者さんも増えているとか。
 この病院に出入りする各社MRの情報では、エビデンス面で曖昧な解釈を説明すると激しい雷を落とすことがあり、準備不足で面談に臨むのは禁忌に近い。

 今日はそれなりに機嫌が良いようで、高槻くんは診療部長室の前でじっと待ち焦がれていたのだが、ひょいと顔を出した先生に「おお、来たか」と和やかに迎え入れられた。
 自分の経験則では女性MRと面談していた直後に会うと、場が穏やかに持ちこたえることが多い。だから、高槻浩介は敢えてそういう順番を狙って廊下に並ぶようにしている。これって営業科学的と言えるのかな?

 いつものように持参した資料を説明し始めると、診療部長が急に切り出した。
「そういや、君のところのMR君、最近になって担当交代したな。今回の女性もなかなかの美人じゃないか。」
 想定外の発言に一瞬、頭の中が真っ白になったものの、社内広報誌に掲載されていた内容を素早く思い出して次の展開に備えた。ええ、2年ごとくらいに部署異動があるようですね、本社部門なので詳しいことは知らないのですが・・・。

 「どの会社もまるで女子アナ一覧みたいにべっぴんの担当者を並べているもんな。しかも、おまけで付いているプライベート写真に目がいってしまうのも、男だから必然かもしれん。ああいうのを見ると、俺が若かった頃のプロパーたちがおっさんばかりだったのが懐かしくなるな。ゴルフ帰りの車内が異様に男臭くてドキドキ感とは無縁だったのが、今やネットで美女とこっそりご対面だ。」

 え-、彼女はそれなりの費用をかけて全国的にウェブ展開しているバーチャルMRでありまして、本社も精鋭部隊を配置しながらMR活動を熱心に補完しており、他社が美人を揃える関係で弊社も社内公募により見目麗しい社員を選抜しているので、部長先生の好みに合わせて出演させているわけではありません・・・と言いそうになって、高槻くんは諦めた。
 まあ、美人が揃えば男性というのは喜ぶものだ。
 しかもバーチャル的存在だから実際に出会うことはないのだし、一定期間が過ぎれば異動して画面からは消えていく。
 「メールにちゃんと返信が来た、ワインが趣味なんて俺と同じだ」と喜ぶ部長先生を前に、俺らリアルなMRの存在って将来どうなるのかなあ?と一抹の不安がよぎるのであった。

 その夜、日報を仕上げて帰ろうとしていると、同じく帰り支度をしている桜田マネージャーから呼び止められた。
  今日はMR君の話が出ました、と言うと「俺も最近、そのネタに困ってるんだよ。だって俺たちオトコが出会うより、ネットで綺麗なお姉さんとチャットもどきしているほうが楽しそうじゃない。MR不要論って、こんな風に発達していくのかね。」
 こうなったら女性医師用にイケメン執事みたいな“男MR君”も創設しましょうよと軽い気持ちで提案した高槻くんは、さっそく骨太の企画書を作ろう!と意気込みはじめた桜田マネージャーの血気盛んな表情に、後戻りできないイヤな予感がしたのであった。





◎M
R君という存在

 我が国でのインターネットを介した医師への情報提供活動は、主に会員制サイトや登録制メールマガジンによって運営されています。大手を含めて複数の医療情報サイトがありますが、私もこれらの情報媒体には年単位で慣れ親しんできました。

 当誌においてもアンケート調査などでみかけるm3.com(ソネット・エムスリー提供)では、医師を実地訪問するリアルMRの補完的役割として“MR君”という、各社の看板役MRたちが定期的なコンテンツ配信役を担当しています。
 現場でMRを数年経験してから社内異動でMR君担当になる場合や、芸能プロ所属の方と契約している事例などがあるようですが、かつての黎明期と比較すれば参加している製薬企業数はずいぶんと増え、一度慌ただしく撤退しておきながら急に復活する企業もあって、その変遷は日本のバーチャルMRの道しるべとも言えます。

 かつてはオジサマも数名混じっていたのですが、いまや圧倒的に女性が多いので(私の場合、29名中28名が女性MR君)、彼女たちは私のパソコン上で看板娘代わりとなっています。数センチ四方のプロフィール写真では、にこやかに微笑む若い女性たちが勢揃いという雰囲気になっており、普段は風貌のさえないオジサマMRばかりが来訪する施設に勤めている男性医師にも、音声入り動画コンテンツやプライベート風写真を交えることで女性ならではの“密接感”を演出することができる。
 女性医師には、同性ならでは共通視線や親近感を伝えることになります。メール送信も可能ですから、たわいもない感想であっても数日以内には丁寧な返信が帰ってきます。

 もはや、これはバーチャルMRというか“バーチャル秘書”のような感覚です。
 当然、そこには参加企業からの製品情報や文献案内などが上手に織り込まれており、視聴する側は販促活動というレールに見事なまでに乗ってしまっているわけですが、コンテンツ開封のたびに加算されるポイントが商品券やボランティア活動への募金に交換できる利便性も加わって、とにかく各社の配信をクリックで開封する行為を繰り返してしまう。なるほど、良く出来ているわけです。

 ところで、これまで数名のMR君担当者とメールをした経験がある私としては、現場MRの研修に一部関わっていることもあって、文面を配信する側なりの葛藤も感じるのです。
 人間と対面している場合には、瞬時の反応や言葉遣いによって会話内容を変化させられますし、MRが欲する情報ニーズについても相手へ直接質問するという手段が選べる。
 けれども、実在しているのにネット上ではバーチャルな存在である彼女たちは、共同でコンテンツ作りをしているグループの“顔”としての役割を演じ続けるわけで、そのイメージを離れて強い個性を発揮することは難しくなります。その意味でバーチャルMRならではの中立性を維持できる反面、個人としての存在感を抑制することが求められます。

 しかも、他社の美人MR君に負けない外見を維持し、動画コンテンツ内でのプレゼンテーションやインタビュー技術を磨き、そして視聴者である医師たちから個人的な人気を得ることが重要にもなるわけです。
 医師と直接出会う機会は限定されていますし、パソコン画面を通じてストーカー的な視聴者から身を守る必要だって出てきます。MR君という仮想空間に登場し続けることの困難さも、時間を経るごとに精神的な重荷となってくるのではないでしょうか?

 ところで、ワカモノMRの皆さんがMR不要論というのを耳にするとき、その代替手段として登場するのがMR君に代表されるバーチャルな情報提供手段でしょう。
 専門部署の知恵を絞って構成されているだけに、5分程度の動画コンテンツが驚くほどの良い出来映えであったりもします。わざわざ人間が営業車を運転して遠方まで訪問しなくても、医師へはネット中心に医薬品情報を運び、MRは主に卸や薬局を担当回りすれば事足りそうな話でもあります。
 特に各施設間の移動時間が非常に長くなってしまう地方では、希望の相手にメールやサイト上で外枠だけでも提供しておいたほうが効率的かもしれません。
 「おお、若いのにこんな遠くまで良く来たな!お茶でも飲んでいけ。」と年配医師から歓迎される事例はさほど多くないでしょうし・・・。

◎バーチャルMRの存在意義をきちんと確認する

 しかし、皆さんのように子供時代からメールやインターネットと慣れ親しんだ世代と、あまり使いこなさないまま中高年の域に至った世代では、バーチャルなMR活動についての意義づけが大きく異なってくるように思います。

 「やっぱり面と向かって話さなければ細かいところまで伝えられないだろ?」と考えるオジサマMRと、「プレゼンするのをネットで代行してもらえたら他の業務ができて楽ですよね?」と考えるワカモノMRがいた場合、どちらを正解とするかは非常に悩ましい。
 そもそも、あなたがリアルにMR活動を担当している意義は、そして配った情報はどのように流通しているのかを突き詰めていかないと、ネット上のほうが“何となく医師にとって便利”でしょうという曖昧な発想に苦しむ時期がやってきてしまいます。

 まずバーチャルMRの存在意義をきちんと確認する、そしてリアルMRとの相互関係を会社がきちんと社員に向けて明示してあげることが重要でしょう。近年のネット配信の増加に比べて、そういったMR活動の土台にあたる理念の創設がとてもおろそかになっているのが残念です。社是や単なる期末目標ではなく、医師や患者へ向けた広範囲なアピールをさぼっていると、何のためにMR活動をネット上にまで拡充したのかが不明になってしまいます。人的行動と重複しているのか、ネットインフラを介した強固な補完関係なのか、あるいは全く別種類のMR活動なのか、きちんと説明できる人がそもそも社内にいるのかも考えてみましょう。

いくら美女やイケメンのバーチャルMRを各社が取り揃えたところで、現時点では医療の“最終顧客”である患者にとっては無関係な話です。
それは医療の舞台裏における企業間競争であり、一般のマスコミにも取り上げてもらえないような狭い世界での話です。バーチャルMRの価値を認識してもらえるためには、各社による現在の周知ぶりは非常に不十分と言わざるを得ません。せっかくコストをかけて展開するのであれば、もっと一般社会に対しても有用性をアピールすべきでしょう。

ワカモノMRの皆さん、まずは自社サイトやメールマガジンを調べて、リアルなあなた方と適切な補完関係が構築できているか確認したほうが良いですよ。意識していなかった意外な盲点が見つかるかもしれませんし、バーチャルMRは最近それほど大きな意味を持ちつつあるのです。



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