2014年6月21日土曜日

【リアルMRとバーチャルMR】新世代MR講座~オジサマ編~  第3回 2009年11月号

<情報はネット上に移行しつつある?> 
 「キミはMR君の担当者よりも可愛いねえって、あの院長にも言われちゃったんです!」
 気持ちよく酔いが回って赤ら顔で喜んでいる川悦さんを、向井所長は熟年世代ならではの渋い声で諭すのであった。
「うむ、相変わらず医師会の先生方には上手く対応しているみたいじゃないか。この前の講演会も会場が満員になっていたし、あの夜に皆さんを集めるとはたいしたものだ。でも、MRの本懐ってのはな、得意先との長い信頼関係を築くことだ。困ったときには夜中でも先生から直接、依頼が来るようなMRじゃないきゃいかん。なっ、高槻!」

 ネクタイがはだけたままカラオケボックスの赤いソファでうつぶせに眠り込んでいる高槻くんを、向井所長は趣味のマラソンで鍛え上げた身体でひょいを持ち上げると昏睡体位に整え直し、店員に冷たい水を持ってくるよう注文した。
 コップのひんやりとした感触が右頬を突き刺し、わあっと目を覚まして急に正気へ戻った高槻くんは、目をぱちくりさせるとテーブルの反対側でご機嫌になっている川悦さんに気がついた。あっ、今日は無礼講だっけか・・・。

「やよい先輩、この前、彼氏さんと派手に喧嘩したんですって?」と不用意に口走って数秒後、高槻くんは左頬が一瞬で砕け散るような強い衝撃を受けて右後方へ身体ごと吹っ飛んだ。
顎が・・・とうめく高槻くんは、かつては名うての武道少女だったという川悦さんの過去を焼酎4杯によってすっかり忘れていたことを深く後悔した。
「あのねえ、浩介くん!今や私たちの将来は、バーチャルなMRたちに負けない価値を持つことにかかっているのよ!ネットの彼女たちは酔っぱらって醜態もさらさないし、ばっちりメイクして夜中でも自宅で全国の先生方に出会えるわけ。だから、生身のMRたちは得意先で先生の真ん前にいるときが常に勝負なのよ!私だって彼と喧嘩した次の日は目が真っ赤に腫れちゃって、本当は行きたくないの。でもね、これが私たちの仕事なのよ・・・。」

見事な突きを決めて緊張の糸が切れたのか、突然、両目から大粒の涙をこぼし始めた川悦さんはソファにへたり込むと背中を丸めてワンワンと泣き始めた。

ああ、今日は大変な打ち上げ飲み会になっちゃったなと、向井所長は呆気にとられている新人2名を優しく諭してから、帰りのタクシーの手配を始めた。
まさか、ここで日付が変わるまで大騒ぎを続けているわけにもいかない。まだまだ社会人経験も浅いし、毎日の業務にプレッシャーも感じているのだろうし、未熟な若者たちを年単位で実地指導していくのは責任が重いことだ。
本社からもインターネットを介したMR活動について、営業所から意見を募集していると連絡が来ているが、うちの部下たちを後方支援するならばともかく、余計なストレスを与えないようにして欲しいものだ。

すっかり泣き上戸になっている川悦さんと左頬を真っ赤に腫らした高槻くんは、結局は仲直りして、同じタクシーに乗り込んで駅方面へと帰宅していった。
うちは、こういう意味での体育会系を目指していたわけじゃないんだがな、と自宅に戻ってから妻にこぼすと、彼女はクスクス笑うだけで、あとは何も言われなかった。
無言の安心感か・・・、これって理解できるのは俺たちが人間だからなんだろうな。



<リアルMRが負ける?>
 時間を無駄にしながら先生方を漫然と待っているくらいならば、昼夜を問わずアクセス実態が把握できるインターネット上でのMR活動のほうがずっと効率的で、しかもパソコン上で注視される関係にあるので情報周知が確実だ、という意見があります。
 なるほど、いまや高速インターネット回線の普及もあって動画コンテンツは驚くほどスムーズに再生可能ですし、医学的にも充実した内容を誇る域にまで発達してきました。私もm3.com(ソネット・エムスリー提供)を昔から利用してきた医師の一人ですが、発足当初とは比較にならないくらい多くの製薬・医療関連企業が、硬軟あわせたコンテンツを定期配信しています。

 中でも現実のMR機能を代替するような、MR君という各社による担当者制コンテンツは、テレビ局的な意味でも医師たちの視線を集めています。
 たった数センチ四方の画面には、にこやかに微笑む美人のMR君担当者が写っていて、それがずらりと居並ぶ上、クリックするたびに商品などに交換可能なポイントが貯まる仕組みになっていて、別に興味がないなあと思う話にまでつい忠実にアクセスしてしまう。ほとんどが若い女性であり、カメラ目線を駆使したプライベート風写真まで載せられては、野次馬的な感覚で下方へとスクロールを続けている男性医師が多数いることでしょう。
 MR君担当者宛の簡単なメール送信機能も付いていますから、定型文ばかりの返信が届くと分かっていても、つい質問を書いてしまったり。年単位の運営ノウハウが結実して、視聴者側にとってまさに絶妙な訴求点を突いているのです。

 こういった配信内容を作成するには各社が相当な工夫をこらしているのでしょうし、自社製品を繰り返し説明する上で、加入者から見飽きられないような努力も必要です。
 たった5分間の動画配信だったとしても、医学的な正確さを漏らさずに製品広告を組むことには、視聴者側からは想像できないような大変な作業を伴うのでしょう。
 ではMR総数が5万人を優に超えているのに、製造業不況のあおりで他業界からの転職者がコントラクトMRとして次々と配属されるようになった現在、彼女たちのようなバーチャルMRたちの存在意義、および現場で医師たちと対面しているリアルMRたちとの共存関係については、一体どのように捉えていけば良いのでしょうか?

<補完関係か、別物か?>
 私は最近のMR向け講演の中で、“リアルMRたちは人間ならではの情報収集能力を駆使して、医療におけるニーズを先取りして双方向性を作り出す特長がある”ことを挙げています。
 その対比としてMR君のようなネット上のバーチャルMR活動を例示するのですが、これはバーチャル側がリアルMRよりも劣っているのだと糾弾したいわけではありません。情報アクセスでの時間的な融通性(自宅でも最新の医学コンテンツを学べる)や医学データの正確さを勘案すれば、ネット上の各社コンテンツは膨大なバックナンバーを含めて、非常に大きな価値を持っています。
 例えば、あの内容が去年の配信に書いてあった気がするなあと題名を検索していけば、初回視聴時と同様の“変わらない”プレゼンテーションを自力で確認することが可能です。しかもMR君はリアルMRたちとは異なり、そのコンテンツ内に限っては読み間違いや言い忘れもなく、巻き戻しも繰り返し再生も自由自在。
 どちらかと言えばパーツ別の医学知識の確認行為に便利で、参考書的で、個別の医師が“自己研鑽”を継続していくのに適切なMR形態であると言えましょう。

 臨床医でも研究医でも、医学部生時代に学んだ基礎的事項に付随して増加する一方の最新医学事項を、“毎朝の新聞を読むような平易さで覚えられたら嬉しい”という願望を自然と抱くものです。
 医師は患者に対して医学事項を「ごめんなさい、分かりません」とは言いにくい職業なので、こっそりと少しずつ地道に勉強していなければなりません。

 つまり全国の医師たちが漠然と感じている孤独な不安、「これって自分には分からないけど、どうやれば正解を知ることが出来るのかな?」という点について、各社MR君は(主目的は自社製品の宣伝であっても)意外と有益な教育行為を続けてきた、というのがバーチャルMRの存在価値となるのでしょう。
 しかもどの医師に向けても情報提供については再現性が著しく高い。生身の人間が担当している場合とは、MRとしても大きく異なるわけです。

 一方で皆さん自身、あるいは部下たちが医療現場へ出入りする意義についても、指導者側は常に確認を怠らないようにすべきです。
 情報の双方向性を瞬時に、しかも地域事情に合わせて柔軟に創造できることがリアルMRの神髄なのですから、“ネットでは代行できないMR活動とは何か?”を各営業所レベルで愚直に追求していくことが求められます。
 向井所長のように長年、現場で社会人経験を積んだ場合には、無言でも通じるコミュニケーションの重要性を深く理解できているはずです。
 電子データとは決定的に異なる人間っぽさ、成長余力などを上司がワカモノMRの中に発見してあげられれば、参考書役のバーチャルMRたちとも十分に共存共栄していける。答えはとてもシンプルなのですね。

end

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