2014年5月15日木曜日

【今年も新人が配属されまして】@新世代MR講座 ~オジサマ編~ Monthlyミクス 2009年9月号

【新人MRの配属日】
 何となく朝から落ち着きがない向井の姿を見て、妻は「いつもより緊張しているわねえ」と少し心配して台所から明るく声をかけた。
「いやあ、今日は新卒の配属日なんだ。先日の電話ではおとなしそうな印象の子たち2人で、人事採用本部からは短期で辞めさせないよう注意されているんでね。去年は熱心に指導した新人が3ヶ月もたずに退職しちゃって本当に困ったし、今年は何とかしなきゃ。」
 深くため息をつく向井の姿に、聞かなければよかったかしらと困惑する妻。「ああ、ごめん。でもこの前の管理職セミナーで面白い新人指導法が話題になったんだよ。」

 地方と都市部で5回の転勤を経験してきた向井は、いつも懸命に支えてくれた妻に対して深く感謝しているし、転校続きでもグレずに育ってくれた3人の子供たちをとても誇りに思っている。
 次女が幼いときに高熱を出して意識不明で緊急入院したときも、担当病院の小児科医たちが真摯に治療してくれて何の後遺症もなく退院できた。プロパー時代もMRでも立派な先生方と仕事を通じて出会えること、その職業的な熱心さに感銘しながら協働できることは素晴らしいと思っている。

 「そうかあ、お父さんは立派な所長さんなんだもんね。転勤してくる新しい人たちにとっては、ここでの親代わりなんでしょ?」
 ニコニコと笑う次女の表情に緊張が解け、自宅を出るときには、いつもの熱い気合いがみなぎっていた。

 「さて、今日から新人が2名、正式に我が営業所へ配属となりました。では、自己紹介を。」
 まだスーツ姿も初々しい2人の姿に自分自身の入社当時を思い出していると、奥の席で高槻と川悦が何やらヒソヒソ話をしているのが見えた。まあ、いいか。以前は体育会系出身者の誇りとして厳しく接したのだが、最近はそういう鉄拳の指導は逆効果らしいからな。
 
 とくに高槻はいまいちはっきりしない気弱な青年かと思いきや、この1年で急激に営業成績を伸ばし始めた男だ。川悦は、同エリアの他社でも有名になっているくらいの美貌MRだが、彼女の特性は診療所の先生方からの好感度が非常に高いこと。面会時の滑らかな話術は素晴らしいが、怒ると後輩が泣き出すくらいに怖い・・・。

 先日の管理職セミナーには宮本先生とかいう、ちょっと面白い医師が社内講演に来ていて、“守旧的営業慣習の打破”とか“新卒MRの育成法”なんてのを大胆に話していった。これまで社内勉強会では聞いたことがない内容だったけれど、考え直してみると、あれが時代の流れなのかもしれない。

 「もはやオジサマMRは社内にとって、最後の貴重な人的資源である」そうだから、新人たちを魅了するように意識して、優しく語りかけるってのを今年は実践してみるかな。

【オジサマMRは社内の宝】
 お久しぶりです。今月から拙著「医師による発展的MR論」をさらに具体化すべく、有料サイトのミクスオンラインと同時並行で新連載を開始することになりました。
 当誌では中高年MRを対象にしたオジサマ編を、またミクスオンラインでは入社数年目~10年目を意識したワカモノ編を同テーマで書いていく予定です。2つの媒体を通じて現在のMRが置かれている状況を年代による視点差を生かして立体的に描くことができ、皆さんが毎日の業務内で直面している課題に対しての分かりやすいヒントとなるのではと期待しています。

 さらに各MRが出会う医療現場のシチュエーションを理解しやすくするために、新連載では架空の営業所・MRたちを登場させることにしました。
 これまで医師として多くの現役MRや管理職と出会っているため、向井所長や高槻くんなどの言動には実在MRの要素を取り入れてリアルに反映させています。何だか他人事に思えない話だな、と感じていただけると日々の仕事へも好影響が出るのではないでしょうか?
 また、ワカモノ編が当誌オジサマ編へ鏡の役割を果たすように書いていますので、そちらも一緒にお読みいただけると、管理職として年代ギャップに悶々と悩む辛い時間が少し減らせるのではと思います。
 現在は、10年の年齢差でも世代別の社会事情が異なる時代ですので、20年前の成功体験が再現できる保証がないという厳しき状況とも言えます。

 けれども皆さんが保持する、各地の医療現場に出入りしてきた場数の多さや、これまで経てきた右肩上がりの昇進、きわどいリストラの嵐をかいくぐってきた先達としてのタフさは非常に意義ある特性です。
 ゆとり教育世代として競争社会の弊害を教えられてきたのに、いざ就職してみたら競争どころか闘争と呼ぶべき厳しさに腰を抜かした、というワカモノたちを先導するのは、多少の傷を負っても現場に居続けたオジサマMRたちしかいないのです。

よって、明快な誇りを持たねばなりません。
こざかしい文句があるなら俺と同じくらい働いてからだ!と自慢できるくらいの意気込みでちょうど良いでしょう。ただし、その表現方法については現代風にアレンジしておかないと、「ヘンなおじさんで喋りにくいわあ」というMR世代差ギャップで撃沈になりかねません。
きっと社会構造そのものが予想外の変化を遂げて中高年には理解が難しい事態になったわけですが、個人だけでは解決できない課題ですので、まずは今日と明日に実践できる手段を順次考えていくのが望ましい。





【新人への積極的なアプローチが必要】
 さて、9月は全国各地の営業所に新人MRが配属されていく時期です。
 今年は連載休止中に数社でMR向け講演を担当し、その中でも配属直前の新入社員だけという研修に登壇する機会がありました。講義・グループ討論を行ってみると、大学卒(大学院卒も)の若さは圧倒的で、柔軟な可能性に満ちているというのが医師から見ても率直な印象です。
 感想を記したアンケート用紙の誤字・脱字には苦笑いするとしても、生真面目に書き込まれた彼らの熱心な反響を読むにつけ、やはりこれから配属先で出会う上司たちが魅力的な職業人であって欲しいと願うばかりです。

 では、いざ自らの部下となった新人MRたちをいかに現場で有効活用できる人材へと育成していけば良いのでしょうか?
 それには管理職として後進の指導法をひとりで考え抜く前に、彼らを「自立した社会人として大袈裟に認めてやり、しかも積極的に口頭で表現させる」ことが重要です。

 IT技術の進歩により現在の新人MRたちは、ブログやSNSなどブロードな電脳世界での気ままな文字表現には慣れていますが、年長者と顔をつき合わせて自己主張していく経験はかなり乏しいと思われます。
 どちらかといえば、ややこしくて理解の面倒な価値観の年代差に直面するよりは、同年代者だけで仲良く集まりたい傾向を持っています。何か必要な用件があれば、時間帯を遠慮せずにメールで効率的に連絡が取れますし、しかも少ない文字数で最低限のコミュニケーションは成立します。瞬時に返答を求められるリアルな面談よりは、こちら側の時間軸次第で対処できる情報往来に安心するタイプなのです。

 ところがMRの業務で重要なのは、“自らよりも年長者の医師”という社会的にも珍しい特別な対象を相手にする場面です。当初は配属されたばかりで慣れない新人という逃げの立場であっても、数ヶ月もすれば自社の医薬品情報を各医療機関の医師たちへ責任を持って説明できなければなりません。
 一方的にメールを送信しておけば、後日に相手から適当な返答が戻ってくるといった情報交換法とは異なるので、多くの新人MRは配属日から“情報交換手段の変化”と“医師への対面”という二重の難関に向き合うことになります。
 さらには薬局や卸訪問、生活環境の変化や営業所内での人間関係、MR認定試験の勉強も重なって、日々の重圧は大きく増すわけです。

 そんなパニック状態の新人たちに、メンター役のワカモノMRを通じて“もっとたくさん努力しなさい”という意義が不明瞭で重たい説教を行っても、すでに手一杯の新人たちが右往左往して職場へ不適応を起こすのは目に見えています。無用な人材ロスを招きかねないわけです。

 となれば、自社財産でもあるオジサマMRは今年から皆で発想を転換して、「俺も昔は、こんなワカモノだったんだ」と新人たちへ愚直に語りかけるのが魅了する切り口としては最善です。
 向井所長が回想するような体育会系の指導法は、全員にあまねく受け入れられる部類ではなくなっていますし、まずは年長者へのアレルギー自体を取り除いてあげないと、新人たちは先輩MRとも有効な意見交換ができません。親代わりでなくても、今やオジサマ側から主導的に関わっていかないと新人MRたちが従わない時代となってしまいました。

 「違和感あるなあ」という場合でも、これが最初の突破口になると私は思います。ヘンな時代になったと嘆いても、時代の流れには逆らえませんからね。


 (end)

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