2014年5月25日日曜日

【私だけ行き遅れって、アリ?】@新世代MR講座~ワカモノ編~ 2009年10月 ミクスオンライン

  人生の分岐点?

 「この先、国道は事故で渋滞しています」とカーナビが冷静に喋るのを聞いた川悦さんは、予定より少し遅れてもいいわと思い直し、愛用の営業車を右折させて大型ショッピングセンターの駐車場に停めて深呼吸をした。
 昼の製品説明会は予想外に質問されなかったし、次も馴染みの老先生のところだから急ぐ必要ないもんね。山積みになった説明資材が占拠する後部座席から黒革製ディレクターバッグを取り出し、最近使い始めたマスカラでも直そうかしらと歩いて馴染みのカフェに向かっていると、マナーモードにしておいた携帯電話にメールが着信している。

 あっ、久しぶりねえ、何かしら?同期入社でお互いに地方都市で奮闘してきた友人からのメールだ。
 『やよい、元気?実はね私、今度結婚することにしたの~!挙式は来年春なんだけどね、年内には入籍して退職するつもり。ちょっと悩んだけど、彼と一緒になったら次の転勤は難しいと思うし。これからは料理上手で、子育てが達者な主婦を目指すわ。やよいは、彼とはまだだっけ?』
 えっ・・・。絶句する川悦MR。
 あの子が私より先に結婚するの?って言うか、仕事を辞めちゃうわけ?皆で頑張って、ママさんMRを目指そうねって昔から約束してたのに。

 またかあ・・・、と今年で入社5年目の川悦さんはがっくりとため息をついた。
 去年から他職種に進んだ同級生たちの結婚式が続いており、カラードレスが増えて週末ごとに“ご祝儀貧乏”となりつつあったのは諦めていたけど、同期入社の女性MRたちが次々と退職していく現実は、公私両立が難しい総合職だと分かってはいても、何だかやりきれない。
 以前、女性MR向けセミナーに参加したときも女性MRは離職率が高く、結婚しても働き続けるには困難な職場が多い、と聞いたのを覚えている。女性MRを積極的に採用している企業でも育児環境の整備では不十分な面が目立ち、しかも地方配属では大都会のよりも公的インフラが劣る場合もあって、あれこれ高望みしようもない。
 すっかりしょげた川悦さんはLサイズのキャラメル・フラペチーノで一気に喉を潤して、新作マスカラの具合を確認すると、午後の予定を手短に回って営業所へ戻ってきた。

 「先輩、今日は元気ないですねえ?」
 日頃から女心の変化には敏感な高槻くんが、書類作成に負われる手をいったん休めて、すっかりしょげている川悦さんをのぞき込んだ。同期MRが寿退職することを伝え「もう誰に愚痴っていいのか、全然分かんないわ・・・」と、いつもは強気で慣らしているやよい先輩が傷つき凹んでいるのを間近で目撃し、高槻くんの中には不意に燃え上がる感情が生まれてくるのであった。
 これはオトコ高槻、ついに出番じゃないですかっ・・・!過酷なボート競技で鍛え上げた精神力の出番でしょ!!と仕事そっちのけで高槻くんが一人、脳内をフル回転させていると、川悦さんがポツリとつぶやいた。

 「恥ずかしいけど、うちの彼に結婚しようって迫ってみようかしら?人生の分岐点では、女がプライドを投げ捨てる勇気も必要よね・・・。」





  個人ではすべてを解決できない

 それを専門に扱う部署がすべての製薬企業内に存在しなければいけないと思うのが、“女性MRが結婚後も、年単位で働き続けられる環境を構築する部門”です。
 この数年間にわたり時短勤務の創設や社内託児所の整備などを例として、多くの企業では20歳代で採用した女性MRたちが結婚後も勤務を継続できるようなバックアップ体制を作り上げようと努力してきました。医療・介護の重点を高齢者中心に置いてきた我が国も、近年はそれなりの予算をつけてワカモノ世代への子育て支援対策を行っています。
 けれども、全社的な改革による成果として“女性MRの勤続年数が飛躍的に伸びたよ”という模範例を見つけることができません。公的な支援に期待しても当然、限界があります。

講演で営業所に伺うと「結婚して数年がたつのですが、これから家庭と仕事をどうやって両立していけば良いのでしょうか?」と、女性MRから人生相談を受けることがあります。
私は論評する側にいて、MR勤務の経験がなく、他業種視点からの無責任な返答だけは避けなければといつも思うのですが、女性医師たちが置かれている厳しい境遇を目撃してきた者としては“個人レベルでは解決できない状況まで、ひとりで苦悩する必要はありません”と答えるようにしています。
 職業人が独力で解決すべき課題と、大きな社会的困難とはきちんと区別して捉えるべき問題ですし、これまでの経営陣の怠慢が招いた結果に対して、女性MRが単独で立ち向かうべきだというのもおかしな論理です。一見、軽視されがちな家庭とMRとの両立困難は、実に多くの複雑な要因が絡み合っているのです。


◎嘘や虚飾を見破る
 男女共同参画を目指す平等な社会体制が法的にも整備され、表向きには女性であることだけで理不尽な待遇を堪え忍ぶ必要はないはずなのに、現在でも配属先の営業所単位によっては時代錯誤な年功序列に基づく“男尊女卑”が残っている可能性があります。しかも、それとは分かりにくいような、ありふれた営業体制内に隠匿された存在として。

前連載(Monthlyミクス20086月号)で“女性MRを支えるために”を掲載した後、現役の女性MRからいくつかの感想を頂く機会がありました。
それらに共通しているのは、年長の女性MRが自社内に少ないため自らのロールモデルとして追随しようがない、あるいは母親が孫の面倒を丸ごとみてくれるような旧来のキャリア・ウーマンモデルはこのご時世ではもう無理、というものでした。確かにこの数年、各社では新卒採用者に占める女性の割合が増加し、しかも医療関連職ということで薬剤師免許を保有するダブル・ライセンスMRという人も珍しくありません。豊富で多彩な人材を揃えている業種とも言えます。

では、採用側の企業が女性MRの置かれている職場環境の限界点をあらわにして、「現在も鋭意改善中ですので、この点については2年間我慢してください」というように具体的なマニフェストを誠実に宣言してきたでしょうか?
“女性に優しい職場”、“ダイバーシティ・マネジメントに熱心な企業”といった謳い文句だけならば安価にいくらでも増殖させられます。新卒採用サイトをのぞけば、社会人経験のない女子学生から見ても魅力的な文句がずらりと並び、同期入社の男子学生には平等感があふれた素晴らしい職場イメージを与えることができる。
嘘や虚飾が混じり込んでいても、アルバイト経験しかない学生レベルでは判別がつけられないものです。ところが、どれにも年長の現役女性MRが少ない理由は書かれていない。
川悦さんのように“同期入社の女性MRが、結婚を理由にして退職する“のを目撃してきたワカモノMRは多いはず。
「この不景気なのに医療業界は堅調だから、結婚しても共働きが常識なんじゃないかな」とタカをくくっている中高年の男性MRよりも、全国転勤はNGだし単身赴任なんて絶対ありえないわ、と決断をくだす若き女性MRのほうが率直で前向きな思考だったりもする。
己が仕事の犠牲になり続ける、根性論で何年も密かに持ちこたえて年老いる、なんていう発想は現代風ではありません。中高年では成功体験が原因でどこか切り捨てられない立身出世への未練を、社会人年数が浅くてしがらみの少ないワカモノMRが見事に断ち切ってみせたりする。それが最善の選択と思えたなら、MRを辞めて次の人生展開に賭ける勇気が出せるのに、かつてと異なる感覚に対してオジサマMRは根本部分を理解できない。 身近な上司の理解不足は、彼女たちが退職を決めるひとつの要因になりえます。

  人生をスケール設計しよう

未来への可能性にあふれた“私的な”結婚生活に中核部分を移行させ、長時間勤務からの合法的脱出を遂げる意味では、MRからの寿退職(他業種への転職を含む)は結果的に人生のプラスに作用する場合があります。
遅い帰宅時間、ヘトヘトになって私生活が楽しめない、さらに仕事人としての豊かな将来像が思い描けないくらいなら、限りあって取り戻せない“若さ”を無意味に仕事へ捨てたくないわと思う女性MRが多いのは合理的ですらある。だって、いつまでも子供が産める年齢じゃないし、と割り切ることもできる。

さて、社会人数年目の彼女たちをどのように支えるべきでしょうか?
女性MRたちがペース配分しながらでも満足できる職場環境を、いかに作り出せば良いのでしょう?そして、これは女性だけの問題ではない、と男性諸氏も責任を一方的に押しつけることをせずに、深く理解する必要があるのです。

いわば、ワカモノMR世代は職業人として親世代にもあたるオジサマMRたちからの、明確な独立を果たす転換点にやってきたのでしょう。漫然と待っていても、誰かが実現してくれる話ではないので、主体的に何かしらの指針を打ち立てていくべきです。

今、ワカモノMR全体が私的な部分でも求められている資質は、非婚を問わずに2030歳代が“親世代からの子離れ”を男女ともに独力で成し遂げることです。
皆さんは、そのためにMRという仕事を選んだわけですから。もし人生がスケールで計測できるのであれば、若手MRとしての職業用目盛りと、社会人としての独立用目盛りを意識的に作成し、その2本立てスケールがどう関連し交差していくのかを真剣に考えて決定しておくべきです。

結婚も、独立世帯を築く意味で自立用の目盛りに刻み込む必要があります。
単なる婚活ブームに踊らされるだけでなく、学生から社会人、社会人から家族人へと段階的な発展を考えなければいけません。スケール構築の段階から自立を心がけておかないと、頓挫したときに修正がきかない。MRと家庭を両立できるか、妊娠・出産・育児はいつ頃がスタートになりそうなのかは、生涯結婚率が90%以上に達する女性にとっては喫緊の課題です。

「もう両立できないから諦めるわ」と、寿退職をしていく女性MRがいたならば、彼女を取り巻く環境にどんな問題があったのかを同年代のワカモノとして考えましょう。オジサマたちにもガチで意見してみると、妻に家庭業務を丸投げしてきた中高年世代と自分たちとの深いギャップを確認できるかもしれませんよ。
この件に関してコトは単純ではなく、厳しい長期戦を覚悟しなければなりませんが、皆さんがずっと逃げ回るわけにはいかないでしょう。


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