2014年5月25日日曜日

【寿退職って聞いたけど?】@新世代MR講座~オジサマ編~  2009年10月号

<適齢期ですもの>
 疲れ気味の桜田マネージャーは瞬くパソコン画面を凝視しては大きな背伸びを繰り返し、乱雑に積まれた文献を机の上で行き来させながら、安易な思いつきを深く後悔するのであった。
 築20年を過ぎた営業所の壁時計はすでに夜9時を示しているが、「明日、関係資料をお届けします」と先生に口走ってしまった以上、あまりひどい出来映えを持っていけない。MRになって11年目、入社した頃並みに帰宅が遅くなってきたなあと、苦く寂しい気持ちが脳内に飛来した。
 この前、最近の多忙を心配している年下の彼女から「ねえ、いつになったら結婚できるのかな?」とデート中に直接迫られてしまったのだが、いつものように曖昧な返事をしたら、完全に機嫌を損ねてメールの返事すら来なくなった。さすがに今回は本気でヤバイかもしれないな、また謝りに行かないと・・・。公私で混沌とする頭脳を熱い職業的熱意で呼び覚まそうと机の前で格闘していると、開業医向け講演会を終えた川悦さんが颯爽と入ってきた。

 「あれ、桜田さん、まだ残ってたんですか?」
 ベージュ色の細身パンツスーツを高めのハイヒールで見事に着こなし、髪を後ろできゅっとひとつに束ねた川悦さんは、我が後輩ながら本当に凛々しい。これで会議中の負けん気も弱まってくれれば最高なんだが・・・。
「先輩、目にクマが出来てますよ。大丈夫ですか?」
くぼんだ両目を慌てて手でこすると、地面に向かって2階分くらい急降下するようなめまいを覚えた。いや、明日に持って行く資料整理がなかなか終わらなくてね、と答えてみる。
いたずらっぽい表情を浮かべた川悦さんはパソコン画面をぐいっとのぞき込むと何かをひらめいたようで、自分の机から白いUSBメモリを取り出して戻ってきた。
「これ、同期から送ってもらった文献資料のPDFです。たぶん、調べているのと同じ分野だと思いますよ。」

桜田マネージャーは後輩からの急な提案に不思議な違和感を覚えたが、そうなのかとUSBメモリを開いてファイル名を判読し始めてから唖然となった。今夜はもう調べられないと諦めていた最新の基礎・臨床研究論文が、整然とフォルダ内に並んでいる。

どこでこれを?!
「今度、寿退職しちゃう同期入社の女の子が送ってくれたんです。内緒の資料だけど、やよいの仕事に役立つかもしれないからって。」

 女性MRには独自の情報ネットワークがあると言うけれど、まさかこういう連帯もあるとは・・・。
 「嬉しいことだけど、ご祝儀貧乏からは脱出できません。あっ、先輩の結婚式にはとびきりのドレスアップで押しかけますよ!」
 苦笑いするしかない桜田マネージャー。でも膨大な資料をきちんと調べている5年目MRがまもなく寿退職するという事実に、一抹の寂しさを覚えもした。
 
 もったいないね、きっと優秀な人なんでしょ?
「結婚したら、もう全国転勤は難しいって話していました。旦那さんと新しい環境で頑張るって。子育達者なママさんMRを目指そうって、同期の仲間で約束していたんですけれどね。」女性のMRは俺が入社したときは少なかったけど、最近はずいぶん増えたもんなあ。

「だから先輩、次は私が寿退職を目指します!本音は辞めるのイヤなんですよ、でも両立は出来ないでしょう。27歳だし早めに子供も欲しいし、ずっと若くはないですから。」真顔で宣言する川悦さんに再び唖然となる、35歳・独身の桜田マネージャーであった。




<結婚・妊娠・出産・育児+MR?>
 まさに娘と同じくらいの年齢じゃないか、と新入社員を前にして驚くオジサマMRは各社で珍しくないでしょう。
 試しに父親の年齢を尋ねたら自分より5歳も年下だった、なんていう切ない現実に直面せざるをえない男性MRは多いはず。中高年のリストラが一段落して人件費に余裕が出てきたから、不足気味のワカモノMRをしばらく補いましょうという製薬・医療機器企業もあります。
 全体を俯瞰すれば、とにかく“女性MRの数が増えた”のです。それも20歳代を中心とする若い年齢層に偏っているので、あちこちの病院や診療所で奮闘する姿を見かけることが多くなりました。

若い未婚男女が増えている最中の業界というのは、仕事の面だけではなく私生活の充実面にまで経営陣が踏み込み、入念な先取り対策をしておかないと、彼らが適齢期に到達した場合に不可抗力で多くの退職者を出してしまう。とくに女性MRが家庭運営との両立を断念して退職する事態は、絶対に避けるべきことなのです。

 国立社会保障・人口問題研究所の『人口統計資料集(2007年度版)』によると、我が国の2006年での平均初婚年齢は女性28.2歳・男性30.0歳となっています。
 徐々に初婚年齢は上昇し続けている(約0.2/年)ので、今年は女性28.8歳・男性30.6歳くらいになっているでしょう。つまり新卒入社した6年目前後の女性MRにとっては、この平均初婚年齢で職業人として“仕事と家庭の両立を目指すか、仕事を辞めるか”の二者択一を迫られる場合が多くなります。
 もちろん、公私の諸条件や個人の考え方も複雑に影響していくわけですから、どちらが良し悪しの話ではありません。でも近年の日本人女性の生涯未婚率は8%前後と推定されていますから、9割以上の女性MRは“結婚と仕事”をどこかで思い悩むことになります。
 ちなみに入社24年目、今年で46歳になった向井所長が入社した1986年当時では、平均初婚年齢は女性25.6歳・男性28.3歳でした。

男性にとって初めての結婚が2年遅れることは大きな変化ではないと考える諸氏が多数でしょうが、女性の初婚が3年遅れるのは初産年齢も上昇していくので社会的影響が大きい。 企業に就職している女性が昔よりも増えた以上、オジサマMRはこの現実を深く捉えていく必要があります。
この意味を感覚的に理解できないという場合、オジサマMRは若い女性の部下を率いないほうが良いでしょう。“プライベートに理解のない、口先ばかりのオジサン上司”として、陰で女性たちから疎まれている可能性があります。

女性には統計上、出産が比較的安全な年齢帯が判明しており、もし結婚して(非婚の選択でも)普通に出産がしたいと願った場合、生物学的に妊娠しやすく周産期トラブルが少ない時期のほうが望ましいのも事実です。
アラフォーの高齢出産が昔よりも安全になり、しかも年齢を見紛うほどに外見が若々しい女優さんたちがマスコミを彩る中で、適齢女性の側も「結婚は30歳を過ぎてから良いわ、20歳代は独身で思いっきり好きなことをしたいの」という発想を抱きやすい。
けれでも妊娠・出産に要する約10ヶ月間は体調・精神面の色々な変化を抱えなければならず、現在のMR職のように長時間で不規則な勤務と両立するには肉体的リスクが大きいのです。独立した世帯を構えるからには、幸せであっても夫やその親族に対する精神的負荷も増すわけで、育児に追われながらの“ママさんMR”を実現できるワカモノMRは多くないと思います。
そんな事実にハッと気がつくと、女性MRたちは一斉に困り出す。ロールモデルが少ない以上、将来への不安は一気に膨らんでいくのです。

<ワカモノ女性MRは結婚後を不安視>
 現在、各社の経営を担当している日本人管理職のオジサマMRたちは、欧米流の家族優先主義とは“真逆”を突き進むような熱血仕事人が多数で、今は孫育てにこわごわと参画しながら妻に過去を懺悔しているような状況です。
 さらにオジサマMRの妻たちは、キャリアウーマンとしての自己実現を果たしきれぬままに結婚退職し、深夜まで帰宅しない夫を懸命に助けて育児と家事を担いながら、“MRの家庭”という転勤族コミュニティの運営に精一杯努力してきたことでしょう。

 あなたが「うちの世代では出来たのに」「若い女性というのは仕事に根性がない」とトンチンカンな視点を持ったMRである場合、今日にでも完璧に悔い改めたほうが良いと思います。
 時代遅れの発想は、仕事に熱中していた父親世代の二の舞を希望せず、しかもリストラ嵐の吹く不況下で“幸せで温かい家庭”という漠然とした未来に憧れる男女のワカモノMRからは、まず生理的に受けいれてもらえないのです。

 「ワーク・ライフバランスって何?」という管理職のオジサマMRが、川悦さんに「寿退職したら、主婦業を頑張ってね」という、情報不足で勘違いだらけの返答をしないか本気で心配になってきました。
 オジサマMRは自らがワカモノ女性MRたちから見放されてしまう前に、製品情報と医療機関だけでなく、既成概念以外の社会勉強をし直す時期なのでしょう。もちろん、どうして女性MRの寿退職が続いてしまうのか?をですよ。

end

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