2014年4月17日木曜日

【MR育成法(近未来編)   ~医療現場をリアルに学ぶ~】2009年1月 Monthlyミクス掲載

今月のポイント
①MRに医療現場を実体験させる方法として、医学部生の病院実習に編入することを真剣に考えよう。
②会社内での研修では知り得ない凝縮した医療情報を、MR各人が学べる機会を増やすべき。

 真の医療を構成するのは人間であり、MRは主体的な現場感覚を体得する必要がある。

<そう遠くないある日>
 「“病院実習”って言ったって、何を持って行けばよいのか分からないや」と愚痴っぽくつぶやく某新人MR
 この春に入社してからは数ヶ月間におよぶ社内研修と営業所への実地配属、さらにはMR認定試験にむけた受験勉強と落ち着く暇もなく、最近ようやく念願のMR認定を取得できたばかりだ。営業所内でも強面の上司にまで気を遣ってもらっていたし、これで晴れて正式なMRになった実感が沸いてきたなあ。  

そして噂には聞いていたけれど、今年からMRを“病院で実地研修させる新体制”が整ったとかで、認定取得した自分たちが第一期生になるとのこと。
もともと大学3年生の就職活動中から現役MRをしている先輩たちに相談相手になってもらったりして、業務のだいたいは知っているつもりだったけど、半年以上を自分なりに過ごしてみると「分かったようで分かりにくい」のが本音。あちこちの施設での待ち時間と移動時間は予想以上だし、忙しい先生たちに相手をしてもらえない場合だってある。
せっかく準備して挑んでも、なにやら難しい医学の質問を浴びせられて毎回、完膚なきまでに撃沈だもの。そのくせ所長は新製品を売り上げてこいって息巻いているし、今後どうすればいいのやら?

でも、病院側からも自分たちMRが不規則に廊下で待機しているのはセキュリティ上の大問題と文句が多く、かといって面会時間制限に加えて完全出入り禁止にされては、製薬会社としてMR活動が立ちゆかなくなるし。
上層部が話し合った結果、MR教育センターが仲介して“新人MRに医療現場を実体験させて、医療職との相互理解を図る”方針が決定したのだそうだ。海外ではそういう方式もあるそうだけど、日本では珍しいとか。とりあえず自分は噂に聞いたこともないなあ。

当初は臨床研修医と全く同じ境遇でMRを過ごさせてみるという案も出ていたそうだけれど、「あの長時間勤務を毎日体験させると脱落者が続出するから」という医師側の意見で結局、医学部5年生の病棟実習に混ぜられることになった。だから、担当する患者さんたちに書面で了解は得ているものの、見た目は医学部の臨床実習生と同じ白衣姿で過ごすことになるのだって。

自分は経済学部出身だからなあ、そもそも病院なんて年に数回、風邪で近所の医院を受診するくらいだったし。薬学部出身の同期なんかは病院薬剤部とか市中薬局で実習したことがあるらしいけど、医学部生と一緒ではないと話していた。まさに未知の世界・・・だな。

<初めての医学部>
 なんだか着慣れない白衣に身を包むと、病院の中も違って見えるのかもしれない。
 「持つだけでそれっぽく見えるから」という理由で聴診器を貸し出してもらったし、顔写真入りの名札にも“実習生”と記されている。鏡でこの格好を確認すると、TVドラマに出てくるエキストラみたい。
今回、うちの会社からは新卒採用のうち20人が2人ずつペアになって、BSLと呼ぶ各診療科の病棟実習に混ざり込むことになった。
このE班は男性3人・女性2人の計5人だから、そこに自分たちMR2人が加わって計7人。集合時間の午前9時に医局へ同僚と一緒に行くと、ちょっとリラックス気分の医学部生たちが分厚いテキストを片手に集まっていた。

「お二人は製薬会社の人なんですよね、よろしく」
班長のA君がニコニコと挨拶してきた。彼の年齢は23歳でちょうど自分と同い年だという。
「最近、若いMRは医療のことを理解していないというクレームが年配の先生方から多くなりまして、弊社としても実際に新卒MRが医療現場を体験するのが適切だという方針になりました。」
へえ、そうなんだという表情のA君。
「まあ、僕たちは教養課程はともかく、ずっと医学部で医療漬けの世界にいますからね。周りは医療関係者だらけだし。6年間あるから大学というか、医学校というのが正しい状況じゃないですかね」
この世界は世間からはちょっと特殊でしょう、と苦笑いするA君の横で、キレイめのBさんが興味深そうにこちらを見る。
「私もA君も、今年はずっと同じ5人で外科とかマイナーとかを回っているのよね。夜飲みに行くのも昼食も一緒で、このE班は仲が良いほうだけど、いつも同じ顔ぶれだから気分転換が必要かなとも思っていたの。だから、製薬会社からMRさんが派遣されてくることになったと聞いて、ちょっと面白いなって」
Bさんは名門女子高出身で、父親が地元では有名な内科開業医なんだとか。社内研修では新卒医師の約35%が女性になったと習ったけど、こうして医者の卵と知り合うと実感するな。
でも、E班の皆は普通の若者たちだ。良家の出身かもしれないが、すごく特殊な感じはしない。

<病棟で目撃する世界>
「じゃあ、病棟に行きますか」
引率役の准教授から簡単なオリエンテーションがあった後、自分たち7人はこれから3週間を過ごす内科病棟に案内された。
“病気は患者さまに学ばせていただくもの”という教授の方針で、とくに学生の接遇態度については厳しく指導されているのだという。TVの医療ドラマでは場面が次々と切り替わっていくけれど、実際に病棟へ来ているとそんな格好良い展開にはならないし、目の前には狭い空間の中にたくさんの医薬品と機材が並んでいて圧迫感があり、しかも皆の距離が近い。

「あ、これってうちの社の抗生物質じゃん」と同期のMRが点滴台に置かれたボトル指さす。
点滴がこうやって準備されているのって、普段は見ることもないからな。近くの医療廃棄物用のゴミ箱には使用済みの薬液ボトルがドサッと詰め込まれている。こんなに多くの医薬品が患者さんたちの身体へ入っていくのか、と考えもしなかった事実に不思議な感情がわき上がってきた。

とはいえ、実際にどうやって時間を過ごせばいいのか分からず、周囲を慌ただしそうに動き回る看護師の様子に驚き、医師が病院端末で黙々と指示出しを行っているのには目が釘付けになった。
先生たちって、廊下で出会うよりも気合いが入っているようにも見えるなあ。

「おっ、本当に実習へ来てんの?うちの病院長も物好きだなあ。でも、白衣を着てると誰でも医者っぽく見えるもんだね」
横を見ると、うちの社で講演会出席をお願いすることが多いC先生が、緑色の術衣に長白衣を引っかけて笑っている。
「もう昨日は当直で全然眠れなかったのにさ、午前の外来は満員なんだもんなあ。また昼飯を食い損ねて、この時間だよ。医者ながら健康的な生活とは言えないねえ」
無精ひげの伸びたC先生は少しやつれて見えるけど、何だかとっても医者っぽい。うわ、海外ドラマで出てくる医師たちってこんな雰囲気だったかな。

「ところで、うちの病棟でも入院患者さんを担当するんだろ?病室へ挨拶には行った?」これからなんです、担当は12号室のDさんという方になっていますと答えると、C先生はニヤリと笑って病室に向かって足早に歩き出した。慌てて後ろをついて行くと、ベッドの上で初老のDさんは老眼鏡をかけてくしゃくしゃの新聞をにらんでいた。

Dさん、今日の調子はどう?この前、例の検査だったんでしょ、昨日のカンファで聞いたよ。でも今回は前よりも入院が長くなっちゃいそうだね」
いやあ、検査結果を聞いてがっかりですよ、と肩をすくめるDさん。
「でね、今週から実習生が来ているんだ。同意の書類にサインしていただいたと思うけど、ほら、製薬会社の人なんだ。白衣を着ているから学生みたいだけど、いつもはうちの病院に来て営業をやってる。僕も一緒に仕事することがあるんでね。まだ新人っぽい顔しているけど、勉強に来ているのは同じだから医学部生と一緒に扱ってください」
よろしくお願いします、と自己紹介をすると、Dさんの顔つきが急に曇った。げっ、何かマズいこと言ったかな・・・。

「あんた、つまり薬を作ってる会社の人?院内で顔を見たことないけどさ、俺の薬のことも分かるの?」
いや、普段は営業職として先生方に医薬品情報をお伝えしているMRという職業です、と丁寧に答えてみたが、Dさんはポカンとした表情をしている。
「まあいいや、若いもんにしちゃ、態度がちゃんとしているから話し相手くらいになるだろうし。この病院は看護婦さんの卵とか、医者の卵もたくさん来ているからね。俺みたいに何回も入院していると、どの看護婦さんに彼氏がいるかだって知っているのさ。あはは」
完全に面食らう某新人MR

とりあえず、これまで病気をどんな順序で治療してきて、最近の体調や通院頻度や、家族への愚痴を聞いていたらすぐ夕方になっていた。
とにかく慣れない状況の連続で真っ青。胃が痛いなあ・・・と思いつつも必死で笑顔を作り、でも何だか面白いと感じていたころに班長のA君がやって来た。
Dさん、今週から実習をしているE班の班長で、Aと申します。僕たちの班には、新しく製薬会社の人が入っていますけど、何か困ったら教えてください。僕らはもう医学部に5年間いるけれど、彼の本職は背広を着たビジネスマンで、こういう医療現場に不慣れなんですよ」
まあいいやという笑顔のDさんにきちっと挨拶をして、本日の病棟実習は終了となった。

MRとしての自らを振り返る>
医局に置いた荷物を取りに帰るとき、廊下にずらっと居並ぶMRたちを目の当たりにして、ああ自分は普段こういう姿で見られているのかと一瞬、足が止まってしまった。
しかも白衣姿だから自分を医師と間違えているMRもいて、すれ違いざまに会釈までされてしまう。何なんだろう、この感覚。俺ってMRなんだろ、どうしてこんなに違和感を抱くわけ?

頭がどんどん混乱してきて、医局に白衣を置いて、ペットボトルのお茶をがぶ飲みしても、喉がカラカラになる。病棟で過ごした半日と、そこから戻ってきた廊下。
いつもは営業車で施設間を飛び回って色んな事情に通じてきたつもりなのに、実際にこうして患者さんや医学部生や医者たちと医療現場で出会ってみると、信じられないくらい予想と違っている。
少なくとも、営業所では誰もこんな生々しい話はしていなかった。研修中も製品知識とか接遇とか、営業・マーケティングの話は出てきたけど、医療に関わっている職種がどう動き回って何を話しているなんて習ったこともない。
「結局は薬を売ってナンボでしょ、MRは」仲良しの先輩の口癖だ。

あれ、自分って入社してから、何を学んできたんだろう?
配布された分厚い資料も整理整頓して、同期とはあんなに将来の話で盛り上がるのに。親父からは「社会で恥じない人間になれ」と毎度言われているけど、いつも廊下で頭を下げてさ。
いや、これだって重要な業務だと思う。MRが本当に必要な情報を運んでいるわけさ、俺たちがいなきゃ、誰が薬を作って売るときに最終責任を持つんだい?

でも、実習初日なのにDさんの話と笑顔、本当に衝撃を受けた。
あんな病気じゃなかったら、やっぱり普通の人なんだろうし。うちの製品を飲んでるって、面と向かって言われたりするなんて考えもしなかった。
3週間限定だけど、俺はちゃんとDさんの生き様を見ていこう。それにE班の皆や、C先生の姿だってしっかり覚えていくぞ。明日は朝から特殊検査だっていうから、遅刻しないようにしなきゃ・・・。


何だか辺りが不自然に明るい。違和感あるなあ、この日差し。
今日は実習2日目の朝・・・のはずがないじゃんか!枕元の時計はすでに午前10時過ぎを指している。今日は日曜日だった。ああ、これって俺の“初夢”!?


うわ、リアルな病院実習の続きを夢でも良いから見てみたかったと本気で思う、正月休み中の某新人MR
だってこんな経験、夢くらいしか起きないでしょと、大きなため息をついた。でも、いつか正夢にならないのかな・・・。

(end)


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