2014年4月13日日曜日

【新卒採用の意味   ~就職活動生を通して眺める業界~】2008年12月 Monthlyミクス掲載

今月のポイント
 国民の健康に寄与する製薬・医療機器企業には、正当な尊敬を受ける新卒者を育成する責務がある
 就職活動生たちの貢献意欲に対して、明確かつ支持される企業姿勢を示そう

 新卒採用者には就職前後での“現場ギャップ”を含めた、業界の実情と庇護を伝えるべきである

<医療に貢献したい>
 師走を迎えて、インターネット上ではすでに製薬・医療機器各社が再来年度の新卒者採用を掲示し始めています。
 小学校教育からパソコンやメールといった電子ツールに慣れ親しみ、ケータイや携帯ゲーム機なども日常のありふれたアイテムとして自在に使いこなす若者世代を対象としているせいか、見栄えのよい動画や先輩MRたちの勇ましい経験談、バーチャルな同行実習体験など多彩な職業情報が充実しています。
 “MRは医療に貢献できる仕事です”といった内容を掲げている会社では営業行為に限らず、医療者と対等に意思疎通し患者のためには日夜努力を怠らない社員を紹介することで、就職活動生たち(おもに大学3年生)の興味を強く惹きつけるのです。

 若手MRの中には在学中から就職活動情報を交換し互助する就活グループを組んでいた場合もあり、それが就職後も社外に広がる人脈の源となっています。私も偶然の縁あって就活グループに関わるようになり、MRになりたいと考えている学生たちに対して“医療の現況”を講演する機会も得ました。

 これまでは主に、営業所に配属中の現役MRに対して連載で述べている“職業思想の確立”を訴えてきたのですが、まだ社会人になる前の彼らは、MRという職種に対してさらに純粋な憧れと理想像を持っていることに驚かされました。
 何よりも、これから職業として選ぶ条件として、“誰かの役に立ちたい”というボランティア同様の社会貢献欲が強い。
 できれば知名度が高くて親族も喜ぶような有名大企業で、世界に事業を発展させている会社ならもっと嬉しいかも。自分たちが進んでいく業界について、そんな純粋培養みたいに濁りのない“夢”を持っていると感じました。

グループ討論でテーマを与えて考えさせれば、懸命に話し合って活発な自己意見を発表する彼らの一途な姿勢を間近で見ていると、どうして医療現場に出入りしている現役MRたちは、この覇気を失ってしまうのだろうと不思議でなりません。
もちろん私がMR全員を知るわけではないものの、両者では意志の輝き具合が強烈に異なる。
当然、それは社会経験の長短や現実を客観的に見つめる成熟度の差が原因なのでしょうが、就活生たちが“羨望の眼差し”でMR職を目指しているのもまた事実なのです。

講演後に学生たちと様々な質疑応答をしていると、志望動機が多種多様であることに驚かされます。医療という揺るぎない社会インフラの中で、自らの仕事が国民の健康増進や疾病治療に大きな意義を持つのだという、ある種の確信に近い夢を抱いている。率直に素敵なことだと思いました。

 MRを目指すための就職活動では、各社の面接会場で知り合った新しい仲間と、内定獲得状況について情報交換する場合もあるそうです。第一希望に不採用となっても、納得できる内定を得るまではお互いを励まし合いながら次々と難関企業に挑む。無事に内定を得た仲間には祝福を伝える。MR就職戦線に勝利した者は、まだ勝ち抜けていない仲間を支えようとし、近年の積極採用の助けもあって多くの就職活動生がMRへの道を手中に収めていくわけです。

 「お金が良くて仕事もラクそうだから」といった安直な動機より、自分自身が社会のためになりたいという貢献願望が根強いのは、多くの国民が日常的に医薬品に慣れ親しんでいる事実の表れでしょう。
 生涯にわたって、一般医薬品を含めて全く薬を使用したことがない人というのは皆無のはず。誰もが多かれ少なかれ幼少期から医療の世話になり、健康を維持するためには優秀な医薬品・医療機器が必要だという共通認識を持っている。
 医療に関係する職業選択の中で、国家資格としての医師・看護師・薬剤師ではなく、あえてMRを目指すというのは企業勤めと社会貢献の折り合いが良く、将来的な出世に期待をかけている面も強いのでしょう。
 MRを経験して、次の上級な仕事へとステップ・アップしていく。少なくとも、就職活動生たちの熱心な言動を知る限りは、そう考えざるを得ません。

<採用企業に気概があるか?>
 ところがため息が出るほど素晴らしい美辞麗句の数々と、歯が浮くような成功美談に彩られた新卒募集サイトを見てから、各社の現場MRと話していると、やはり採用段階では“貢献”を掲げているのに、いざ入社したら全国に配属可能な“営業のコマ”として処遇されてしまうのが厳しい現実だと感じます。
 元MR、つまり昇進して運営企画部門に異動している人たちも、各人固有のMR歴を誇示するがごとく「あのときの営業経験はこんなに役立っています」と話していたりする。あたかも製薬・医療機器業界では、MRは最初に全員が経験すべき入門職業のようなもので、昇進して現場を離れたら“もうMRではない”という出世魚のごとき感覚を持つのですね。

 「うちは筋金入り、しかも現場経験バリバリの熟練MRを揃えていますから、どんな困難な状況でも対処可能です」と喧伝している企業を知りません。
 親会社の営業不振に日本の子会社が派手に巻き込まれ、給与水準が高い中高年MRたちはリストラの優先候補として数百人規模の希望退職に追い込まれる。あくまで“人員”の削減、研究職・間接部門も含めてMRは“人員”と数えられているのです。
 当社のMR集団は自社以外では育成不可能な伝統ある職人集団だ、という企業が仮に存在したならば、きっと医療界に新しい衝撃を与えられる。MRとして社会人のスタートを切ったけれど、勤務実態が想像とは違っていたから将来は上手に足抜けできればいいな、という職種に成り下がってしまってはいけないでしょう。

 ですから、MR予定の新卒採用者に対しては、まず企業体として彼らを“育成する気概”を明確に示すことが重要でしょう。新社会人として初めて目にする職場環境があなたの会社であったのに、「こんな仕事がしたいんじゃなかった」と失望されるのは悔しくありませんか?しかも社会の何たるかをまだ十分に知らない若者たちから、あっさりと見切りをつけられるわけですから。

<現場ギャップについて教えよう>
 相手がまだ知らないことを、正確に伝えるのは経験豊富な指導者であっても難しいものです。
 研修部の担当者、あるいは配属先の上司や先輩MRとして新卒採用者向けのセミナーに登場する場合、来訪した若者たちにどうやって想いを伝えればよいのか悩むと思います。限られた時間内で、MRがどれほど誇らしいかを学生に理解してもらいたい、という秘めた熱意。
 MR志望者が現役MRと出会うわけですから、やはり普段から取り組んでいる業務の素晴らしい点や、将来的なキャリア形成、日常の福利厚生を含めた待遇面に話題が集まるはず。大学生たちには十分すぎる刺激になります。
 ところが私が就職活動生と面談していて痛切に感じるのは、彼らが“職業と私生活の両立”についてはとても冷静に考えているということです。
 就職は自己実現の手段で、生活の糧となる以上は、他業種と比べた待遇の良さも必要。世界的な金融危機の影響で国家的に医薬コスト抑制がさらに推進されて、製薬・医療機器企業の好調な業績にも影響が生じる。我が国でもMR数が抑制されていく可能性が否定できず、再び訪れるかもしれない就職氷河期やリストラの中でも、どうやって自分の人生を組み立てていこうかを懸命に悩んでいる。20歳代で全国各地を転勤していく生活、病院や診療所という普段は患者として出入りする特殊な空間を仕事で訪れる緊張感、医師や薬剤師といった医療専門職と対峙する高揚感。
 それでも、“どうやったら満足する生活ができるのか”につながる事項を矢継ぎ早に訊いてきます。

「外資系と内資系だったら、どちらが良いと思いますか?」「医師から見て、この企業はどうですか?」と知識不足で少し的外れな質問でも、彼らは本気です。仲間と積極的な情報交換もしているし、知らないなりに一生懸命、自らが知りたがっている姿をアピールしてくる。

この場合、私は彼らにまず“医療の現場ギャップ”について教えることにしています。
何よりも最初に知っておくべき事項を、学ぶ機会を与えられないまま実戦舞台に送り込まれてしまうことは避けるべきだからです。“医療に貢献したいという夢”を抱いた若者たちが、無防備な姿で医療業界の混沌にあおられることは危険極まりない。就職後に気づく医療現場におけるMRの苦境、営業を主体に求められる働き方への直面は、就職間もない新卒者たちが脱落する大きな原因となります。

半年前後の新人研修期間を設けているのに、そもそも“医療業界とは何か”を明確に伝えることができない企業側の責任は大きい。
“製品が売れれば良い”を最優先の運営ノルマにしていると、貢献を旗印にしてきた新卒者たちの出鼻を派手にくじくわけです。相談された先輩や上司たちも売り上げの数字に夢中では、彼らは普通にシラけてしまう。自分を押し殺して我慢するほど、この業界に未練があるわけでもないから見切りも早い。
しかもMRと接する機会が多い全国の医師側からすれば、製薬・医療機器業界内のあれこれは縁遠い上に実態が分かりにくく、接待やお願い行為や、配布パンフレットくらいしか印象に残らないと思われていたりする。そもそもMRは、医師の存在に対する絶対条件ではないわけですし。

 現場ギャップとはそんな中で “企業が採用活動中に掲げている見目麗しい職業理想の数々と、現実の医療現場での待遇落差”を意味します。
 残念ながら医療は理想だけでは前進しないし、昨今の医師不足ひとつにしても日本社会におけるインフラ・経済・教育などの複合要因によって起きてしまった根本解決が難しい問題です。個々人のレベルでは、どう抵抗しても乗り越えられない事柄が医療には依然として多数存在しており、MRを取り巻く現況もそのひとつでしょう。

<若者と向き合うときには>
 社会人になったらMRとして働きたいと熱望して訪問してきた学生たちには、採用企業側として苦境を包み隠さず、しかも短時間アルバイトしか社会体験がない彼らでも、素直に受け止められる回答をしてあげる必要があります。
 以前のような知識詰め込み型教育を強制されずに育った年代であれば、自由闊達に考え意見をすることが美徳とされている。新人研修を終えて1人のMRとして出て行ったとき、医療業界の現状に直面してなおさら傷つきやすいはず。そこでは個人の自由で意見しても相手を変化させられる範囲が限られます。 

採用企業は親に代わる保護者ではありませんが、会社の名刺を持たせ製品知識を与えて現場に送り込む以上は、新卒採用者たちへ自社精神に相応の振る舞いを教える責務があります。
無知であることは恥ではありませんし、先輩や上司から貪欲なまでに知識を吸収する余力は若者の優れた美徳です。営業戦力人員として彼ら新人MRの配置に悩むマーケティング担当の皆さんは、そもそも医師とMRが対面しているときの状況を現場に出てもっと勉強すべきでしょう。
どんなに膨大な統計データを分析しても、数字で医療は再現できないし、優れた製品は宣伝広告に関係なく支持される。製薬・医療機器企業は医療の直接行為者ではないし、ヒトは標準化できる工業規格品と違う。

 新卒採用者を抱える意味とは、自社の既存戦略に都合のよい白紙の若者を染色するのではなく、どこに出しても恥ずかしくない優秀な医療人材として輩出することにあります。中途採用の多様性と同様、きちんと育てる意義を絶対に忘れてはいけない。MRを志望している若者たちの輝ける未来を背負うことは、募集広告からすでに始まっているのです。

 あなたに自信があるのなら、その気概の一端を就職活動生たちにも見せてあげましょう。
(end)


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