2014年3月1日土曜日

【女性MRを支えるために 〜男女の機会均等とオトコ的MR業界〜】2008年6月 Monthlyミクス掲載

今月のポイント
① 新採用者数の増加に伴って女性MRも増えつつあるが、勤続していくためのサポート体制が不十分
②女性であることが職業人として不利にならない人材育成法へと変化させるべき

③現状を招いた企業側は、女性MRの離職増加に悩むよりも、業務の機会均等を確立すべき

<増える女性MR
 就職氷河期と呼ばれた頃を脱し、近年では各社が団塊世代の大量退職後に見込まれる人材不足に備えて、新卒者採用を積極的に増やしています。職業イメージも良く、20歳代から30歳代前半までの女性MRが多くなってきました。

 現在(2008年)のMRを取り囲む環境は女性にとって働きやすいと言えるでしょうか?
 依然として入社5年以内に女性MRの約80%が離職するという事実。第2新卒が認知される現在とはいえ、“男女間で離職率に大きな差がある”のにはこの業界特有の事情があるように思えます。
 そして仕事熱心で優秀な女性MRが日々、現場から去っています。
 夢や意欲や希望にあふれた就職活動中と、出待ち・接待・お願い攻勢に象徴される実際のMR業務との落差。男性MRと遜色のない結果を上司から求められるわりには、会社のサポート体制が物足りない。中年MRは「若い女性MRをどう扱っていいのか」と嘆いていることすらある。

 そんな状況下では仕事に前向きに取り組む女性であっても、将来的に長期の明るい展望が描けないのは仕方がありません。増える若い女性MRを業界・企業としてどのように支えるべきか。絶望してMRを辞めてしまう女性を一人でも減らすためにはどうすれば良いのでしょうか?

<いびつな人材構成>
 皆さんの会社で、現役MRはどのような年代構成・男女比になっていますか?
 上司から新人まで人員のバランスが良く男女比も同じという企業はごく少数で、昨今の大規模な合併・吸収劇を経て、中間層が少ない“いびつな”状態が多いはずです。

 経営側としては人件費が高く行動変容が難しいベテランMRを多く抱えるよりも、卒業したての若者を大量採用して人材を入れ替え、それなりの研修期間が終われば医療現場にどんどん送り出すほうが長期的コストを考慮しても安上がりでしょう。
 男女雇用機会均等法の施行以降、閉ざされてきた各分野における女性の社会進出は徐々に達成されつつあります。MRを目指す就職活動生たちと話していると、医薬品・医療機器を通じて“医療に貢献できる職業”として強い憧れを持っており、男女とも薬剤師などの専門資格が取得できるにも関わらずMRを選択していたりします。世間的にも“女性を男性と区別なく活用している”、または“女性が働きやすい環境を積極的に提供している”企業は好印象を持たれやすい。
 少子高齢化が進み若者人口が減少している日本ですから、“採用するなら無理がきく男性のほうが良い”と内心で思っている企業は男性偏重となり、いずれ優秀な人材が不足して自然淘汰されていくことでしょう。
 しかし建前では“男女に雇用上の差別はありません”と言いつつも、実際には女性MRが耐え難い労働環境を放置し、優秀な女性MRを自発的離職に追い込んでいませんか?

<女性MRを支えない冷酷な業界>
 医師でも女性の増加に伴い、職業と家庭の両立困難が深刻な課題となっています。

 20歳代の女性は仕事を覚えて社会で役割を果たし始める時期であると同時に、結婚・妊娠・出産・育児が重なりやすい時期です。時間的に余裕がなければ独身であっても、私生活との両立困難を事あるごとに実感するでしょう。
 女性が増加する医師の場合、医学部定員は常に規定されており毎年の医師国家試験合格率も約90%で変わらないため、結果的に女性医師が増える一方で、男性医師は減少していくことになりました。いずれ新米医師の男女比(約65%対35%)は半々に近づきます。
 つまり長年にわたって男性が多く勤務することを前提にした労働環境や業界常識が、女性医師には古臭く耐えがたい状況になるのは自明です。朝から晩まで出勤しているのが当然で、土日・祝日も当直などで勤務するのに代休も取得できない現状は、医師の心身を消耗させます。

近年の小児科医・産婦人科医の不足は、若手女性医師の比率が高い分野であるにも関わらず、医療現場の支援体制が一向に整備されないまま、家庭との正常な両立を考慮したときに「医師としてきちんと責任を果たせないのならば常勤医を辞めよう」という、非常に理知的な判断を多くの女性医師が下している結果だと私は考えています。
公私の両立が中途半端なままでは、医師として人命を預かる立場であり続けることが危うく困難になるという現実を、医療現場の中で明確に理解しているわけです。
医師も普通の人間ですから、ずっと働いていればお腹も空くし疲れるし、眠くもなる。美味しいご飯を食べて、家でゆっくり休みたいとも願う。でも、“今いる人員で何とかこなしてよ”的な病院経営が続いた結果、全国的に医師が大量離反する現象を引き起こしました。
 一方で定員がきちんと満たされている病院、一流と賞賛される施設も存在しています。医師のモチベーションは全国一律に低下するわけでもなく、開業医にも地域で重要な役割を果たしている方も多い。
 この状況が、女性MRを取り巻く環境に似ていると私は思っています。
 企業に就職すれば、その組織内での事情や地域特有の理由が強く業務に影響してしまうものです。新人研修では同期女性と仲良く将来的な夢を語りあっていたのに、いざ各地の営業所に配属されたら中年の男性MRばかりで女性は自分だけだった、という事態が十分に起こりえます。
 プロパー時代から泥臭い雰囲気の漂う男性中心の職業だったこともあり、世代も性別も違う職場内で孤軍奮闘するとき、女性MRが感じる孤立感というのは不意に転職や退職を思い悩むのには十分過ぎるほど重い。
 指導してもらった先輩女性が結婚を機に、あるいは「次にやりたいことがあるの」と自発的に退職するのを目撃していたら、残された若い女性MRに“君には長く働いて欲しい”と企業的に要求するのは酷です。ロールモデルとして憧れるには程遠い鈍感な男性上司たち、接待のコンパニオン代わりに動員される営業活動、アポイント無しで達成感の得にくい長時間の出待ち、そういった不合理で満足しえない勤務状況がちっとも変化しそうにないとき、彼女たちの多くが結論を下します。

 「こんな仕事をやりたくてMRになったわけじゃないわ。」

<元・MRという存在>
 女性が数年でMRを辞めた後、コントラクト制を含めて再びMRとして仕事復帰する事例は多くない様子です。
 育児中ならばMRの業務は時間的拘束が長過ぎるし、平日の帰宅時間も不規則で遅過ぎるので普通には両立が出来ません。「いや、我が社は週休2日制だし、男女ともに育児休暇取得も推進しています。女性に優しい認定も取得しました」という事例でも、妊娠時を含めて何千日も続く子育て期間は女性にとって毎日が真剣勝負の連続なのであって、そのスパンでMRの職業的な未来を考えられないのであれば責任を果たして勤続することは難しい。

 「私は某社でMRをしていましたが結婚を機に退職して、今は別の仕事をしながら家庭を支えています」という場合、入社時に抱いていたかもしれない“医療に貢献できる仕事としてのMR”を自身で納得できる水準まで務められたのか気になります。
 人は仕事をするために生きているわけではありませんが、社会の中で果たす役割を得る手段としてMRを選択したのであれば、医療に関わる立場としての充実感をきちんと手に入れてほしい。それも、人生の一部をMRとして過ごすことで収入だけでなく有意義な社会経験を積めるようになって頂きたい。悲喜こもごもの人生が集まる医療の世界で、自らが担当している製品が多くの人々にとって大切で支持的な存在であることに、限りない誇りを持って欲しいのです。MRであることに“自信を持っています”と男女で疑問なく宣言できる段階へと皆で進むことが早急に必要でしょう。
 「離職するのは根性が足りないからだ」と言うのは屁理屈であり、個々人の女性MRに根本的な理由があるわけではないのです。

<オトコを中心とした業界体制からの脱皮を>
 これまで私が講演会などでお会いした各社の幹部の方に伺うと、「若い女性MRは接待の少ないエリアを担当させて負担を減らし、ベテランの男性MRを大規模病院に配置しています」というような話が出ます。
 企業側として適材適所を配慮したつもりでしょうが、これは非常に“オトコ的発想”です。増加する若い女性MRに負担をかけないようにと気遣っていながら、高水準の先端医療を担っている施設を経験する機会を彼女たちからやんわりと奪っています。優秀であるならば男性でも女性でも関係がないでしょう。
 医薬情報のプロであればこそ、会社の名前を全面的に負わせ、きちんと適切な施設で高度な勝負をさせて、強い人材を育てていくべきです。女性MRを一段、低く見ているようなMR配置は早晩、時代遅れになります。
 たとえば私が勤務している500床規模の大学病院では、院内で見かけるMR9割以上が男性です。それも明らかに年配者が多い。彼ら男性MRが社内でも図抜けた成績を維持するのならばともかく、あまりそういった強い印象を持つことは少ない。以前に勤務していた中規模病院の担当者のほうが実務に精通していたなと思うこともあります。
 もちろん全国的に正確な統計的評価を集めることは難しいのですが、若い女性医師も多い院内で中年男性MRばかりが居並ぶというのも不可思議な気がしますね。
 
 「大規模な施設を担当させるほど、うちの女性MRは経験が豊富ではないんですよ」と言うのであれば、それは現行の人材育成方法が間違っています。
 女性MRのウケが良い小規模施設を担当できる副次的存在ならば合格点、といった時代にそぐわない古びた発想をしている企業は、いつか淘汰の波に巻き込まれながら「何がいけなかったんだろう」と現在を悔やむことでしょう。
 守旧的・オトコ的な考えにしがみつき、外見的に整った職場環境を揃えたように見せかけても、人的情報ネットワーク網を構築するのに長けた女性MRたちは企業の“虚構”を鋭く見破り、「こんな古臭い業界では何年やっていてもダメだわ」と少しの未練だけを抱きつつも、新しい別世界にさっさと移動していきます。せっかく高額コストをかけて育てた女性MRに数年で呆気なく辞められてしまう企業側には、理解できないという不信感と喪失感が残るだけです。

 世の中は、女性と男性が平等です。
 それぞれに得手不得手があるとしても、職業人生の中で受ける恩恵や挑戦する機会は当然のごとく均等であるべきです。「すぐに辞める女性MRには任せらないよ」と思う男性上司の皆さん、それは今日用意している環境や労働条件が現状に適していないからです。優秀であることは性別にも年代にも影響されません。そして優秀になるべく経験を積む機会も、性別で区別されてはいけません。
 女性であることで同期の男性よりも多く努力しなければならないとしたら、これは明らかに不平等です。

 私は実直で真面目でたくさんの資料を勉強し、それを熱心に伝えようと努力をしている女性MRが数年で辞めていくのを何回も目撃していきました。
 もし彼女たちが苦境や差別を感じることのない、誰にも誇らしい職場があれば結果は異なっていたでしょう。女性MRの皆さん、決して黙して我慢する必要はありません。今いる職場にフツフツとした不満があれば変革したいと、明確に主張しましょう。
 女性と男性の多様性があってこそ、組織は常識的で強固な存在になるからです。あなただけが臆することはありません。
         (end)

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