2014年3月22日土曜日

【オトナかオヤジか? 〜中年MRの分岐点〜】2008年9月 Monthlyミクス掲載

今月のポイント
①新人MRを迎える営業所は、オトナ度の高い職場環境を目指すべし(とくに所長)
②上層部の戦略と、現場での人材育成を両立するのは不可能ではない

③オトナMRは部下を“否定しない”姿勢を貫こう(=尊敬を受ける方法)

<元・プロパーのその後>
 「あの頃は、我ながらよく頑張ったよな」と、少し曇った窓の外をぼんやり見ながら回想する某中年MR
 プロパー時代の仲間の多くは転職や人員整理で会社を去り、残った同期はごくわずか。業界では互角のライバル関係だと思っていた製薬会社とは数年前、電撃的に合併したし、しかも今では“外資系”企業となっている。大卒で入社した時、こんな状況は想像すらできなかったな。
幾多の試練と挫折を乗り越え、転勤続きで家族に相当な迷惑もかけたけれど、今では都市部重要エリアを担当する営業所の所長にまで昇進した。“40人の部下を率いる管理職”か・・・。

今年もそろそろ、本社で初期研修を終えた新人MRが正式配属される時期となっている。
男女一人ずつ、ともに昭和60年生まれだから、まさに自分が結婚した年だよ。あのときは、土日は凄腕の上司を伴って先生方と接待ゴルフ、平日だって夜になれば繁華街で賑やかに飲んでいたっけ。深夜に酔って帰ると女房には「家のことを放り出してまでやりたい仕事なの?」といつも怒られたけど、うちの子供たちだってちゃんと大学に入ってくれたし、自分なりに苦しい時も黙って耐えてきたんだ。今年も新人たちを面倒みないとな。

それにしても就職氷河期以降、うちも他社に負けじと新卒採用数を増やしているんだが、どうにも最近はすぐ辞める奴が多くて、正直困る。
今どきの若い連中は第二新卒とか言って、就職してから仕事との相性を現在進行形で考えるという噂だ。そんな連中に、厳しい現場で何ができるのかね?

<新人配属の日>
 「おはようございます!本日からA営業所でお世話になります、新人のBです。よろしくご指導・ご鞭撻をお願いいたします!」
 若者らしい元気あふれる挨拶に、思わず微笑む営業所長。接遇教育は重点的に力を入れていると研修部が説明していたが、ちゃんと挨拶もできるし身なりも整っている。あとは病院回りを始めてから、どこまで根気強く続けられるかが、気になるところだな。

 指導役の先輩MRたちから詳細な業務説明があり、しばらくは新担当となる病院・診療所に挨拶回りをすることが日課と伝える。ついに現場ですね、と意気込むB君。いまいち日焼けした学生顔に黒スーツ姿が馴染まないが、ネクタイのセンスはなかなかだし、育ちも良さそうな雰囲気だ。

「ふむ、まずは担当病院の先生たちに君の存在を覚えてもらうことが大事だな。社会人ともなれば、君は会社のバッジを付けた“歩く広告塔”みたいなもんだ。最初は現場なりのやり方に戸惑うかもしれないが、やはり営業活動と情報提供をしっかり両立していくには、まず相手と仲良くなる必要がある。巷に増えてきた調剤薬局とか、病院の薬剤部、卸との良好な関係も重要だ。MR認定試験は今年の冬だから、もちろんしっかり勉強時間は確保してもらうが、まずはMRとしての使命を果たす努力をしなければならん。」

現場でたたき上げたベテランMRらしく、仕事上の心構えを平易に述べていく。
今どきは懇切丁寧に最初から教えてやらないと、若者ウケが良くないんだとか。こいつらは“ブログ世代”で、表だって文句は言わないけど、インターネットでは裏で活発に議論するんだろ?俺たちの頃とは様変わりしたな。
そういえば、あの熱烈な接待営業で鳴らしたC先輩はどこに行ったんだっけ?結局、飲み過ぎて肝臓を悪くしたという噂だが、早期退職勧奨で暗い顔して辞めてったんだよな。そのまま故郷に帰ったっきり、誰も消息を聞いてない。

 「所長、あの・・・」
 ちょっと自信なさげな表情で新人女性MRDさんが尋ねる。
「この前の研修で、うちの女性MRはまだ少ないけれど、これからも採用を増やすし育児支援体制も整えているから、将来も心配ないって言われました。でも、この営業所では女性って、私を入れて3人だけです。上手くやっていけるのか、ちょっと不安で・・・。」

 実は昨年まで営業所には6人の女性MRがいたのだが、そのうちの2人は結婚を理由に退職し、地元に戻って再就職している。薬学部出身者だと、“医療に貢献できる”薬剤師として働き直したいと言い出されることもあるし、他の製薬会社に転職、あるいは理由が曖昧なまま辞めていった者もいる。
 毎年のことだけど、“辞める”と唐突に表明する女性MRは悩みの種だな。

 「この営業所には年齢の近い男性MRもいるし、最近はワークライフバランスの推進も提唱されている。確かに男性ばかりで働きにくい部分は残っているだろうが、それは我慢せず私に言って欲しい。実はうちの娘もあなたと歳が近いんだよ。自分は若い時から仕事ばかりで家に帰らなかったから、娘はあんまり口をきいてくれないんだが、でも親世代として気持ちは分かるつもりだ。仕事と家庭は違うものだが、遠慮して黙って考えていても状況は変わらん。だから、困ったときは必ず言ってくれ、そうしないと何事も始まらないだろ?」
 父親のように穏やかな口調で語りかけると、うつむいていたDさんが少し微笑んだ。はい、頑張ります、と唇をきゅっと結んで、さっと席へ戻っていった。

 所長として我ながら上手く言えたと思うが、これで俺の悩み事がまた増えるんだな。

<現場感覚から遠い経営者>
 ある日、エリアの営業所長会議で本社に集合がかかった。
 自販機の前に座り、缶コーヒーを飲みながら医薬品事業本部の配布資料を読んでいると、急に“午後の会議には社長が参加する”と知らされた。ヨーロッパの本社から昨年赴任した外国人社長で、非常に頭脳明晰で優秀だと業界内で評判となっている。
 いわく、積極的にMR数を増やすからにはその費用対効果や医師への戦略的効果も無駄なく上昇させるべきと、色々な戦略を矢継ぎ早に打ち出している。どこかのMBAを取得し、若いのに日本を任された人なので、将来はヨーロッパ本社で社長の椅子を目指すのだろう。

 「ですから今年の新人配属に関しても、それを管理・指導する営業所長たちの現場スキルがとくに重要です。有力なパイプラインを確保し、多額の研究開発費を維持し、そして有力薬剤を世界中で迅速に発売し続ける。我が社は株価も好調ですし、社会に画期的な新薬を提供する重要な使命を帯びているのです。」
 社長も相当に気合いが入っている。事業本部が長い時間をかけて作成した綿密な戦略資料を読み込んでいると、何だかうち会社の将来は非常に明るい気がしてくる。

 翌日、朝礼で昨日の会議について部下たちに説明した。
「うちも再来年春には大型新薬を投入できる見込みだそうだから、今後3年間は既存品に多少の目減りが出てもカバーできるそうだ。やはり競争相手に負け続けるのは嫌だからな。」
 目を輝かせて、うちの会社は凄いねえと言い合う新人MR。隣では連日の接待で寝不足気味の中堅MRが、懸命にあくびをこらえている。
 しかし、何だか最近は全体的に士気が上がらないような雰囲気だな。確かに神経をすり減らす仕事だし、足腰は疲労蓄積で痛いだろうが、この仕事は長く続けてこそ面白い。
 “先生たちに認められてこそ”のMRだ。どうも、俺の気持ちが等しく理解されていないんじゃないか・・・。

<監督者としての悩み>
 9月になると、各社でも研修を終えて現場配属された新人MRたちが目立つようになります。
 中途採用者を含めてOJTの効率化と確実化は、監督責任を伴う営業所長には頭の痛い課題です。今回の架空ケースでは、営業所長を務めるベテランMRに、新人MRの指導・女性MRの労働環境改善・人員増の中での士気維持など、かつてのプロパー時代よりも細分化された重い責任がのしかかっています。長年にわたって医療現場に出入りし、多くの医師から個人的信頼さえも勝ち得ているならば、勘やコツといった数字化しにくい才覚を駆使して難題でも円滑に対処できるのでしょう。
 しかし、研修部門がみっちり教えているビジネス界の複雑な営業理論や薬理学的事項、接遇訓練などは確かにMR業務の“基礎”ではありますが、誰もが間違いなく再現できる完成型の“応用”ではありません。
 とくにヒト対ヒトの関係性に、平等かつ簡便に使い込めるスキルを確立するのは本当に難しい。臨機応変に実践できるか、かなりの難問です。

 それは、常々MRと相対している私の業務でも痛感します。他科の医師たちとの応対を見ていても、“声かけ・後追い・面談時間確保”の図式はMRの無意識行動に深く根付いてしまっている。
 本来は欠かせないパートナーシップを結べるはずの業種間なのに、対等関係へとなかなか到達できない。

 現在、管理職の立場に昇進したMRたちは、世代間ギャップに加えて成功体験の有無でも、大きなもどかしさを抱えているのではないでしょうか?
 バブル期のごとく右肩上がりでイケイケの時代を一度経験してしまうと、それが自分の力量だけで成し遂げられた功績のように思えてしまい、実は企業が多額の投資を現場へ投下していたから上手くいった、という事実を忘れがちになります。個人の実力だけでは、医療界で活躍の場を構築するのは非常に難しいはず。

 それでも会社上層部は再び強気な戦略を掲げ始め、しかも外国資本傘下で数字的結果を冷徹なまでに要求されるといった場合、どこまでが通例通りにOKで、どこからが伝統的でNGなのか、現場でも監督・指導者でも大混乱となってしまいます。
 じゃあ中間に挟まれた層はどっち側に行けばいいのか、あるいは新人は古い方法を完全に否定すれば成功できるのか、など判断に難渋する事態が多々発生してしまう。では、どうすべきでしょうか?

<現場の指揮と士気>
 もしあなたが複数のMRを率いる指導者的立場ならば、不動の名将とまではいかなくても、部下たちが同じ方向を歩む程度には統率力を発揮しなくてはなりません。
 それも日々の号令を繰り返さなくとも、個性豊かな集団が右往左往しない前進性を維持すべきです。スタンドプレーに走りやすい、引っ込み思案で初対面に弱いといった各MRたちの特徴を“否定しない”で有効利用する術を練り上げましょう。善悪や優劣では部下を成敗しない、オトナの余裕を漂わせてみるのです。

 なぜそんなことを書くのかと言えば、各社で研修会をしているときに最も切実に感じるのが、この“上司のオトナ度”の違いだからです。
 それはMR集団の士気に直結すると私は考えています。数字や営業理論、アンケート分析や販売戦略に傾倒するのは自由ですが、MRは基本的に“ヒトを相手にする”情報専門職であり、人格的にも職種的にも熟達すれば、周囲から正当な評価を自然と受けるはず。職場への波及効果も望めます。どの新製品を県内で何番目に売ったという実績を自慢する部下を営業所内で褒めつつも、人間的な成長を称えることも欠かさないようにしましょう。

 もし既にオヤジ領域に達した中年MRであるならば、これまで幾多の浮き沈みを経験したあなた自身が、現場で働く人々にとって最高の教科書であり、しかも今日まで医療現場を離れなかったのであれば根性のある“カッコいいオトナMR”になれるはず。
 外見だけでなく、深い内面も光ってこそ、新人も中堅MRも同じ目標へ進んでいける。行きつく先が未知の頂であれば、皆で協力して登ることに抜群の価値が発生します。お互いに助け合う、評価し合う、敬意をはらうといった連続性は職業人の記憶にしっかりと刻まれます。若い新人MRは孤軍奮闘の武勇伝よりも、そういう協調経験に強く憧れる。

 さきほどの営業所長には、士気低下の解決策として「自分はこんな風に働いてきた。今後も進んでいく方向は、時代が変わっても同じなんだよ」と語ることをお勧めします。
 
 オトナはそうやって次世代を育てるのですから、小手先の対策など実は必要がない。娘に口を聞いてもらえない根っからの猛烈仕事パパであっても、職場では少しの尊敬を集めてみましょう。それを感じた医師からも、新しい価値を認めてもらえるかもしれませんよ。
  (end)

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