2014年3月6日木曜日

【芋づる式情報収集のススメ 〜効率的ミニ・マーケティング実践法〜】2008年7月 Monthlyミクス掲載

今月のポイント
 医師が保有している人的ネットワークを知るだけで、マーケティング戦略は激変する
ひとりの医師から芋づる式に情報を集めるべく、MRは情報収集法を工夫しよう

医療現場の変化を敏感にとらえ、効率よく連続的にミニ・マーケティングを実践すべし

<有力情報は身近にある>
 MRの皆さんが配布している自社講演会の案内チラシ。そこには当該製品を支持してくれるはずの、座長や演者の所属先が記されています。はるばる遠方から来場した医師に大切な講演を依頼した場合もあるでしょう。
 そんなとき、ふと気になりませんか?なぜ普段の活動拠点が離れている医師同士なのに、演者として壇上に並ぶと違和感なく一緒に仕事ができるのでしょう?

 「うむ、A先生とは学会のガイドライン作成委員会でご一緒して以来、旧知の間柄なんだ。大学はB県だが、実は彼の出身地がうちの実家に近くてな。お父様はこの分野で活躍した有名なZ先生だ」と答える座長のF教授。
 迫力のある威厳を保ちつつ「先日、地元で一緒に飲んだときに講演をお願いしたら快く引き受けてくれた。大学時代は私と同じ硬式テニス部だから、学年は離れているが東医体で見かけたこともあったな」といった事情ならば、MRとして相当に深いマーケティング活動が出来るのです。
 問題は、そういった医師同士の膨大な関係が持つ有益性に、全国のMR自身が気づいているかでしょう。

 立派な理系医療マーケティング論が数多く存在する一方、医師同士の“個人的アナログ関係性”について明確に言及したものを、あまり見かけません。
 医師を特定の処方傾向を持つ“塊”として、あるいは“統計分析の対象物”として捉えたものがもっぱら主流で、医師が個々人レベルで保有している人的ネットワークについて積極的に踏み込んで分析しようとしていません。大規模なアンケートに頼らなくとも、もっとアナログ的で泥臭い方法を駆使すれば、MRは重要な情報収集が出来るのですが・・・。

<医師は医師とつながっている>
 当然のことですが、社会人は社会人とつながりを持っています。
 学生時代の友人・恩師、近所の幼なじみ、親戚、職場の同僚や先輩・後輩などその関係性は数限りなくあります。
 医師を目指すとき、まずは全国どこかの大学医学部に入学しなくてはなりません。“偏差値競争は無駄だ、人間的にロクな医師が出来ない”と批判する声もありますが、少なくとも医学部に合格しないと医師になる機会は得られない。そうすると医師仲間では“塾が同じ”“出身大学が同じ”といった必然の関係が生まれます。卒業年度が違っても母校の話題で盛り上がることもありますし、個人的でローカルな関係性というのは、卒業後に長い年数を経ても変わりにくい。

 医学部は6年制大学の小集団であるため、在学中は医学教育を高校の続きとして受けているような雰囲気です。
 留年や編入で多少の入れ替わりがあっても、6年間を基礎・病院実習も含めて皆で一緒に過ごすため、母校への帰属意識が強くなる。大学内でのサークルは少人数の部活が主流ですし、体育会系となれば医学部間の定期対抗戦や合宿、総合競技大会があるので他大学生と交流する機会も多い。かつて卒業後のストレート入局が主流だった頃は、医局内でも部活の上下関係が純粋に引き継がれていましたし、病院に就職しても学生時代の関係性は残り続けます。

 つまり医学部を卒業して医師となった時点で、個人には“それなりの医師ネットワーク”が構築されているのです。
 医療現場に出れば研修医の同期や各科の指導医たちといった、更に多くの医師と関わるようになり、社会人としての知己は経験年数に従って増え続けます。留学や学会関係者を含めて、医師にはクモの巣状に複雑な人的コネクションが出来上がっていき、日々発展するわけです。
 
 “大学病院のC先生の同期入局が、市中総合病院のD先生である”といった場合、その周囲に広がる医師ネットワークがあるはずだ、と担当のMRは具体的に探してみると、実に面白いのです。
 よく聞いてみると“隣エリアのE先生とC先生は大学時代の部活仲間”で、しかも学生時代からの仲良しなので部活の飲み会にもOBとして参加している。そこでは顧問のF教授とよく飲みかわしており、“F教授はその分野の権威だ”という関係性が芋づる式に判明したら、これは数字で分析する以上に、明確に把握しやすい事実です。
 F教授にはG県の担当MRがいるので、試しにメールで連絡をしてみる。「うちのエリアのC先生と隣エリアのE先生が、大学時代の部活でF教授にお世話になっていたそうです。今度、面会したら話題に出してみては?」
 すると後日、G県の担当MRから返信が届く。「いつもはMRに強面のF教授が、C先生とE先生の名前が出た途端、とてもご機嫌になりました。あのワンパク坊主たちが立派になったのか、と非常に喜ばれて、停滞気味だった面談が一気に盛り上がりました。これで急いでいた治験の依頼もスムーズに進みそうです、本当に助かりました」と返信メールをもらった。「なるほど」と唸るMR

 こういった展開は、プライバシーの侵害にならない範囲であれば、どんどん皆で探ってみるべきでしょう。
 医師は公的存在ですし、開業医や勤務医たちが保有する関係性をMRが“人的ネットワーク”として把握しようとすることは、担当エリアの医師を“成り立ちから理解する”上で有力な手段となります。樹形図を描いて“見える化”していけば、情報を社内でも共有しやすくなる。
 しかも、MRは医師に応対するトレーニングを受けている立場です。“探る”という行為を上手に続けていけば、ボンヤリと廊下で出会うのを待つよりも、医師の世界をきちんと理解しやすくなります。これを薬剤師に当てはめても良い。その中では、医師と薬剤師の関係性を知る可能性も秘めています。

<医師の家庭からも医師が生まれる>
 昔から日本では“医師の子供が医師になる”事例が多い様子です。
 この職種は世襲制ではありませんが、開業医を中心として一族の事業継承を目的に「何とか、うちの子に医院を継いでほしい」と親が子供の医学部進学を熱望するのも珍しくない。おそらく歴史的にみても “親子で医師”というのは相当数にのぼるのではないでしょうか?

 そして昨今、女性医師の増加に伴って医師同士の結婚が増加している現状を考えると、これからは“両親が医師の家庭から、次世代の医師が育つ”傾向がより顕著になると予想されます。この傾向は今後数十年にわたって、日本の医療情勢を大きく左右していくかもしれません。
 実際、子育て中の医師家庭では夫婦で離れて赴任することが困難となるため、地方を含めて都市部の総合病院が人気を集める傾向が出てきています。
 医師同士だからといって、幼い子供を抱えて別居生活を我慢するわけではない。“適正な医師数から何人足りない”“やっぱり医療費を考えれば過剰だ”という結論のない迷宮的な議論よりも、現時点で“夫婦ともに現役医師を続けて、まともな家庭生活が維持できるか”を国も含めて真剣に考えていかないと、毎年、新しい医師が誕生するのに、実動可能な医師数が一向に増えないという苦境に陥ったままになります。
 “高学歴者である女性医師は、職業的同士で学歴差がなく、偏見抜きで理解してもらえる男性医師と結婚する事例が多い”と、MRは気づいているでしょうか?
 “現実的に考える”という視点がすっぽり抜け落ちていると、机上の空論を繰り広げたまま“必要な数が合わない”と悩み続けることになるのです。そういう何となく感覚では認識していた状況も、MRは本来しっかりと論理的に分析する潜在能力がある。
 医療界の将来を想定していくときには、つねに眼前で起きている変化に敏感であるべきです。それは、医師たちを眺めるのがもっとも分かりやすく、見えないネットワークを知っていくべきでしょう。

MRはリアルな医師情報を集めよう>
 私がこれまでに指摘している事項を「あらかじめ社内研修で習ったし、毎日のように必要なネットワーク情報を医師から収集していますよ」というMRがいた場合は“素晴らしい”の一言。
 でも、そういうMRに出会ったことがない私は、こうして文章で読む以上に“耳で情報を吸い込む、そして整理整頓する”実践を、皆さんにおすすめします。もっぱら雑談ばかりの面談になっていても、話題の振り方ひとつでポンっと嬉しい情報が出てくるものです。“芋づるを引っ張ると美味しい芋がどんどん出てくる”、普段から単純にこれを目指していただきたい。どう料理して食べるかは後でじっくり考えればよいことで、まずは新鮮な取れたて情報を手もとに得ましょう。

 具体的に医師のネットワークをMRがつかむ例として、私は講演会などで“託児所付きの女性医師ブランチ”を提案しています。
 それも週末の午前に開催するのが良い。MRを休日出勤させて開催するかは各社の自由ですが、講演会後の平日夜9時に立食スタイルの懇親会を実施したり、深夜の送迎タクシーを準備して高級レストランで少人数を接待するよりもずっと有意義でしょう。

 まず、集めるターゲットは子育てに忙しい20歳代後半から30歳代の女性医師とします。常勤との両立が難しく、アルバイト勤務や大学院生として育児時間を確保していることが多い世代です。
 場所は交通の便がよい都市部のおしゃれな有名ホテルやレストラン、集合時間は遅めに午前11時。この会の目的は“育児中の女性医師が、最新の医療知識を共有すること”、もちろん勉強です。
 そのためには医療現場でバリバリ活躍している医師を講師として招き、専門分野以外の総合的話題を扱うように依頼しておきます。文献やネットでは知ることのできない面白い知識を医師だけで聴ける、というのが開催設定のミソです。育児に疲れ気味なので講義時間は長くても1時間半とし、自宅でも読めるように詳細な資料も手渡しておく。

 もちろん、普段は取引のない玩具・教育関連企業とタイアップし、臨時の託児所運営は万全としておきます。
 医師ばかりが集まるブランチとなれば、それらの営業担当者は飛び上って喜ぶでしょう。子供たちを安心して預けられるし、昼下がりのブランチはゆったりと美味しい料理を堪能。そして夫が医師であれば同伴参加を可とします。MRは普段のスーツ姿ではなくカジュアルな格好で、そのブランチ会場に溶け込む。

 いつもの出待ちスタイルでは間違いなく“浮き立つ”ので、さりげない会話で盛り上げるテクニックと臨機応変さが求められます。白衣姿しか目撃していない医師たちが、「意外と普通の人たちである」ことが実感できるでしょう。食事中の医師から不満や不安、将来の夢などを遠慮なく聞けるチャンスです。
 その中で耳をそばだて質問して、医師同士の関連性を懸命に探ってみましょう。担当施設の医師が“有名教授の娘さんだった”ということが当たり前のように出てきます。夫を含めて情報を集めれば、膨大な医師ネットワークの存在をMRが体感できる。

 あとは各自が得た情報を社内に持ち寄り、どういうアプローチで次の面談を組むか戦略を練っていく。医師の個人情報を扱う慎重さが必須ですが、営業エリアが違っても自力で収集した情報は社内で共有できる。費用対効果を考慮しても、講演会のリピーター率や、次に新たな医師を誘ってもらえる確率がぐんと高まります。
 実にアナログ的な方法ですが、運営次第で損を出さない工夫はいくらでも可能なはず。現在のひどい“数字依存症”から脱することができます。つまり、現場に出入りしているMRは“有用なミニ・マーケティング”がいつでも可能なのです。医師との面談がもっと面白くなるような予感がしませんか?そういう事例が増えていけば、驚くような営業変化が各社で出てくるのではないでしょうか?  
  (end)


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