2014年2月22日土曜日

【医師から考えるMRの現況 〜求められる普遍的思想とは〜】2008年1月 Monthlyミクス掲載

今月のポイント
①    MRの現況は時代遅れになりつつあり、医師との成熟した新しい関係性を構築すべき。
②    医療界の変化に素早く対処し、誇りを持てる“職業人”としての普遍的思想を創造し共有すべき。
③    MRが尊敬される存在へと発展・成長するために、営業や研修面を含めた抜本的改革が必要。

<はじめに>
 「先生の中にも、そんなにMRのことを真剣に考えてくださる方がいるのですか!」
 これは私が独自に企画しているMR向け勉強会の後に、頻繁に聞く感想です。
 医療現場で勤務医として各社MRと接するうち、現在の“MRと医師との関係”に疑問を持つようになり、改善に関わる発想を自発的にMRへ提言しています。
 「現役医師によるMR活動への改善案など初耳で本当に驚いた」という横並びの反響に、私自身がビックリしました。同じ医療関係者なのに、双方の間には正体不明の壁が存在しているのです。

 私は臨床現場に出て7年目、医師業界では若手です。
 研修医を終え市中病院に配属となったとき最初に気になったのは医局前にズラリと居並ぶMRの多さでした。
 まだ医師3年目の若輩者なのに、年配MRが懇切丁寧に学術資料や講演会案内を渡してくださる。いつも「お願いします!」と礼儀正しく依頼されても、いったい何をお願いされているのか良く理解できないままということが多々ある。
 小規模な研究会でも移動手段を要領よく手配し、文献調べも電話一本で依頼できる。MRは便利屋さんなのかと素直に思いました。
 でも顔馴染みになったMRから処方依頼の合間にこぼれてくる愚痴から、MRが抱えている苦悩が何となく気にはなっていたのです。

次に転勤した市中病院では昼夜とも日常臨床に追われ、じっと出待ちしている各社MRに挨拶する余裕すらない。
外来や医局前で待ちぼうけしているのも気の毒だからと、MRの名刺に記載されたメールアドレスに、「遠慮なく連絡してください」と送ったところ、アポイント依頼がそちらに届くようになりました。
おかげで文献手配や講演会案内なども効率が良い。業務メールのやり取りを通じてMRからも私がどういうタイプの人間かを理解しやすくなり、廊下で出会っても雑談以上の会話が続くことが多くなりました。
話すことで私もMRがどういう境遇の職業なのかに、興味を持つようになったのです。

思えば医学部6年間と臨床研修2年間、「どのようにMRと接するべきか?」を習った覚えがありません。
“医療現場にいつも出入りする背広の人たち”程度のイメージしかなく、偉い先生に対して宴席で熱心にヨイショするとか、面白いノベルティーを無料で貰えるとか、律儀にスライドを説明している職業、といった印象でした。

ところが各社MRと話をしていると、ベテランなのに医療現場の初歩的な趨勢を知らない場合が意外と多い。医師の世界に関しても実はあまり正確な知識がなく、習ったことも無いと言う。
医師としても、MRという職業について説明を受けた覚えがない。まさに“医師とMRの相互理解不足”です。
MRが抱える課題には医療現場を知っていればすぐ解決する場合が多いとも気づき、某社の営業所に招かれた勉強会で疾患・治療の解説はそっちのけにして、私なりに思う改善案をMRへ試しに伝えてみたのです。

「過去にそういう話を聞いたことがないですね・・・」
ベテランMRは医療現場の裏側すら熟知している、という私の先入観はガラガラと音を立てて崩れ、その後の他社を含めた研修会アンケートでも「初耳でした!」という感想が年齢に関係なく多数を占める。
医師の視点での常識が、同じ医療業界のMRには未知の場合が多いという不可解な事態に深刻な危機感を持つようになりました。このままでは多くのMRが無駄に損をし続けるのではないかという焦りが、この連載をスタートした直接の動機なのです。
これまでMRから見聞きしたことを整理統合して、私なりの言葉で実直に皆さんへお伝えしたいと思います。

MRが置かれている奇妙な世界>
 医療現場という舞台は病院・診療所、薬局、製薬・医療機器会社、卸など多数の”役者” が演じることで成り立っています。国民皆保険という世界に冠たる制度のもとに存続する医療界では、昨今に顕在化している地域格差や構造疲弊を加味しても、誰もが機会均等な医療を受けやすい体制となっています。
 しかも医療というのは公的インフラですので毎年多額の出費を要し、それに関わる各職種にも常に社会的意義が伴います。例えば医師は医療の発展と運営に関与し、国民の健康に奉仕すべき存在です。

では、MRという専門職はいったい何をもって医療界に意義をもたらすのでしょうか?まさか“自社製品の売上額”と答える方は少ないと思います。優秀な医薬品・医療機器を多く売ることで“たくさんの患者さんに役立っている”と考えるのが模範解答かもしれませんね。

就職活動でMRを目指した時、本心から医療に貢献したいという熱い思いを抱いて入社された方も多いでしょう。
ところが医師の視点でMRの現状を考察すると、営業ノルマ達成や自社の年間優秀MRの表彰、担当エリアの自社製品シェア拡大が当面の私的目標になっていて、いつも“数字を追いかけている”印象を強く受けます。でも売り上げの数字は、それを必要とせざるをえない患者さんたちの“人生”の積み重ねであり、治癒困難な多くの疾患が世に存在するという事実でもあります。
MRは自社製品を含めて医療情報のプロ、医師は医療界での中心職種ですが、MRと医師がプロ同士として、対等に渡り合う状況は現在ほとんどないのではと危惧しています。
そしてMRを最初に教育する各社研修システムにおける普遍的思想の曖昧さ、旧来のプロパー時代から続く業界慣習、医師のMRに対する基本的理解不足などが原因で、相互の関係性が健全で望ましいオトナ同士の水準にまで成熟していないというのも、また事実ではないでしょうか?

実はMRが活動する世界は、非常に特殊で難しい特殊空間だと私は思っています。
モノを直売する立場でもなし、製品情報を深く学び関係者に提供する仕事なのに自社製品を使用中の患者さんに出会う機会も少ない
率直な使用感も収集しにくい上、自社製品は少なからず副作用の危険性も伴って世の中に出回っている。皆さんの手元にある売り上げ数字の意味を単なる営業ノルマではなく、医療を巡る重い現実として捉えたことはどれほどありますか?

<知識不足は無駄な混沌をもたらす>
 新聞の経済欄を見ると“新薬販売が世界的に好調”“大型新薬候補により株価急上昇”など製薬・医療機器会社をめぐるビジネス的な話題で賑わっています。
 経営幹部のインタビューでも「世界シェアを睨んだ再編合併も視野に入れている」など威勢の良い話が並んでいますね。
 ただしこれらの話が営業車をせっせと運転して担当施設を回り、診療所の待合室で気まずい思いをしながら医師の出待ちをしているMRたちにどれほど実際的に有益なのかは甚だ疑問です。
 いざ医療現場に出たとき真に役立つのは自らの仕事に役立つ地域情報や同僚の経験談、医師を含む関係者との実直な意思疎通など、もっとアナログ的で狭い範囲でのノウハウのはずでしょう。新規シェア獲得だ、営業ノルマだと社内メールで連日のように上司から鼓舞されても「今日も、あの先生に会えなかったし、廊下で無視されたよ・・・」では、本来の活動意義に乏しいまま時間だけが過ぎてしまいます。混沌を生み出すばかりです。

 もし果敢に医師へ挑むことが仕事の中心であるならば、短時間でも顔見せに出向く水準にとどまらず、職業的プロとしての誇りを持って対等に向かい合う精神が必要でしょう。 お願いする・頼むという“依頼型営業”から、“双方に有益で、患者さんのためになる情報交換を行う対話”への格上げが急務だと考えています。

MRには共通の普遍的思想が必要>
 医薬品・医療機器の情報を橋渡しするMRは、存在意義を問われるはずもなく必要不可欠の存在であるべきです。
 にもかかわらず、MR不要論が浮上するのは、現況を大変革する動きがどこからも出ないからではないでしょうか?
 製品知識の専門家として長期間、現場であらゆる経験を積み上げ、不意に襲いかかる無理難題へ果敢に取り組み、生み出した成果を自社だけでなく医療そのものへも還元しうるような高い職業的思想。
 そして誰からも尊敬されうる、“MRとしての崇高な職業観”を新たに構築し、共有すべき時代であると言いたい。

 「先輩MRに同伴していたら、先生へのお世辞がとても上手なので真似しようと思いました!」
 それで満足しうる水準で、MRという専門的職業を全うしてはいけません。今や医療を構成する多数の要素が複雑に変化しており、製薬・医療機器会社にとっても過去の成功体験を再現することが困難となりつつあります。
 若手や女性MRが早期に離転職しやすい守旧的な業界体質も、大きく改変すべき時期になったのです。
 医師の世界も大きな社会潮流に乗って変化し続けており、皆が認識する以前に先取りして行動すべき俊敏さを備えていたほうが未来を広く曇りなく見通せます。

 私はこの連載を通じて日々、MRとして勤務されている皆さんに対し医師の視点を利用した“職業的自己発見”を提案していきます。
 MRを続けていく中で悩みやすい事項、壁にぶつかり頓挫するときにどうしても原因が分からない事態。それらの解決法が、医師側の視点からだと簡潔に提案できてしまうことも数多くあるのです。
 この連載がMRという仕事に日夜励む皆さんにとって、更なる現況改善の一助になることを切に願うばかりです。
                    end

図1 MRから医師へのアプローチ法(旧来型)
  現場で顔見知りになりMRを経験的に覚えてもらう。
  誠心誠意、出待ちしてでも挨拶と製品使用依頼。
  熱心に出向いて自社製品の認知度向上。
  研究会や会食で、やんわりとアピールする。
  →プロパー時代との差は?

2 求められる新しいMR-医師関係
  職業的プロとしての対等な意見交換。
  医療界における潮流を同水準で認識している。
  成熟した社会人同士としての関係性構築。
  会社上層部から現場MRまで一貫した姿勢。

3 MRに医師の視点が有用である理由
  MRの仕事に対し社内的満足に陥りにくくなる。
  2者から相互補完的に医療界を見渡せる。
  同じ時間軸で動くことで仕事の質が改善する。

  医療現場の実際は医師が最も熟知しているはず。

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